虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ラグナロク その16
『──“千変宝珠”!』
遠隔で観る彼女が叫ぶと、その掌に魔力で構築された珠が生成された。
続けて『剣!』と告げると、その形状は彼女が望んだ通の剣を模る。
ポーションのお陰で、まだ彼女たち戦乙女に退場者は出ていなかった。
しかし神族たちが目的──アインヒルドを退場させるまで、この攻撃は終わらない。
だが、アインヒルドが敗北すれば必然的にその契約者(暫定)である俺も退場する。
そういうルールがある以上、彼女たちは協力してアインヒルドを生かそうとした。
彼女自身は戦おうとする。
ただ守られるだけの存在ではなく、栄誉ある戦乙女の一人なのだから……なんてことを考えているのだろう。
「ただの意地だけじゃ、神には勝てない。英霊たちが多少消耗させているとは思うが……まだまだ余裕そうだし」
戦乙女たちの戦闘スタイルは、武器と刻印式の魔力運用法であるルーンを用いての魔法剣士スタイル。
武器のみの純粋な戦闘力、魔法的才能では他の参加者に比べると若干劣っていた。
だが英霊たちと共にヴァルハラで研鑽する中で、その限界まで鍛え上げられている。
アインヒルドはその中でも、多様な武器への才を持つ武芸者だ。
俺の渡した『千変宝珠』の発動媒介を、上手く使いこなしているのがその証拠である。
他の者も優れた才を持つ戦乙女だが、迫りくる神族の中でもテュールには通用しない。
軍神であり、かつては天空神であった隻腕の戦士。
片腕になってすぐならまだしも、何度も行われたラグナロクによって、彼の戦闘法はそのハンデを背負ったうえで死角を無くしたようなモノになっていた。
だからこそ、アインヒルドが一人で挑んでも勝てるような相手ではない。
少しでも力になろうと、テュールへ果敢に挑んでいた彼女に向けられた凶刃。
「……遠隔投入、蘇生薬」
それを庇い、バッサリと斬られて戦乙女にこっそりと蘇生薬を散布しておく。
別に死んではいないのだが、最上級の回復薬でもあるのでちょうどいいのだ。
一方、そんな裏事情を知らないアインヒルドからすれば、その戦乙女は退場である。
そしてその原因は、自分自身……内心では感情が激しく渦巻いていることだろう。
「うんうん、順調にやっているな。しかし、そこまでして拒否するものか」
《彼女にとって、旦那様からのアイテムの提供は自分自身の力不足を証明するモノ。恩義は感じていようと、根幹の部分では受け入れられてはいないのでしょう》
「だが、それもこれまでだ。さっきの子がいいことを言ってくれたみたいだな。後で、美味しいお菓子でも贈っておこう」
ずっと見ていたわけじゃないので、その詳細は分からない。
しかし、たしかなことが一つ──彼女が手にする宝石型の装置から、光が漏れていた。
さぁ、反撃の始まりだ。
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