虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ラグナロク その15
アインヒルドや戦乙女たちは、『生者』である俺を殺すために狙われている。
俺と暫定的な契約をしている彼女を退場させることで、俺をも退場させられるからだ。
そのため、神族すらも戦乙女である彼女たちを狙っていた。
……事前情報だと、あまり集中して狙われることは無かったらしいんだけどな。
「英霊たちがカバーに入ったか。けど、さすがにあの神は不味いな」
左目に映る光景を観ながら、そんなことを呟いている。
現れた神族の中でも、その片腕の神はかなり厄介だと認識していた。
……ちなみに右目に映るのは、体が勝手に動いて参加者たちを暗殺していく光景だ。
行動の再現を従来の技術と『プログレス』の両方でやっているので、サクサク殺せる。
《軍神テュール。一説によると、法と豊穣と平和を司る天空神であったとされます》
「だからかもな。そもそもその名前自体、たしか『神』って意味の言葉なんだから」
彼は周囲の参加者たちを、その手で掴む剣と肩に取り付けた盾で蹂躙する。
味方であるアース神族を除き、次々と生命反応が掻き消えていく。
戦乙女たちからも、少しずつ被害が出始めている。
元のスペックが違う上に、何度もラグナロクをやっている経験があるからだな。
ポーションを渡していたものの、いずれそれも尽きて退場者が出てしまうだろう。
それを解決するために、戦乙女たちを庇う者たちが現れる──英霊たちだ。
彼らは手に武器を持ち、『プログレス』を発現させてテュールへ挑む。
強い戦闘への渇望によって、彼らは移植したその日に発現に成功していた。
《おそらくは英霊として、存在を証明するモノが発現しているのでしょう。それまでの能力に比べ、彼らを体現するモノが多いです》
「なるほど、生前という限りがあるからか。お陰で『プログレス』もそこを再現するという形で分かりやすく仕上げられるのか」
《はい。お陰で搦手という形で、一時的にではありますがテュールを相手に時間稼ぎが行えています》
「……普通に粘るには、まだ一手足りないというわけか」
真なる力を使えないテュールであっても、隻腕であっても強い者は強い。
剣と盾を巧みに使っては、並み居る英霊たちをことごとく倒している。
多少『プログレス』の特異性が働いていても、未だに優勢なのはテュールだ。
そうなると、やはりカギを握るのは……。
《間もなく、戦況が動きます。ポーションも尽きるうえ、逃げた先にも他の神族が待ち受けておりますので》
「前門の虎後門の狼ってヤツか。相手も本気だってことか……」
彼女が力を振るうために、必要な条件は満たしたのだろう──素直にさえなれば、勝てると思うぞ。
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