虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ラグナロク その12
主神──オーディン。
北欧神話において、武神にして賢神である上にさまざまな権能を有する最強の存在。
見た目が老人だからと言って、まったく油断できない。
その気になれば、俺を破片すら残さず殺し尽くすこともできるだろう。
「……やり過ぎだろう。もうそろそろ、引退した方がいいんじゃないか?」
「ほっほっほ、まだまだ若い者には負けられないからのう。ほれ、次が行くぞ」
「チッ──『地裂脚』」
いつもとは違い、地団駄を踏むように勢いよく足元を踏みつける。
当然地割れはその場で発生し、俺を地面の中へ取り込んでいく。
それとほぼ同時、先ほどまで俺が居た場所では大量の事象が発生していた。
火や水、氷などの自然現象の他にも、弱体化や圧迫などデバフ系も起きている。
「なるほどなるほど、そのような使い方もあるのか。じゃが、その後はどうする?」
「──『モールクロー』“アースプール”」
星剣を腰に提げ、『プログレス』を両手の爪先から生成する。
それを壁に突き刺して引き戻すと、大量の土が出てくるのでそれを繰り返す。
掘っては道を切り開き、先へ進む。
今の俺は穴掘り能力を高められており、まるで泳いでいるかのようにサクサクと奥へ進むことができる。
「──“アースクロー”」
時折上向きに爪を振るうと、その影響をドローンで確認しておく。
上空からの映像によると、ちょうど老神の足元へ爪型の棘を出すことに成功していた。
「なかなかやりおるではないか。むんっ!」
「……マジかよ」
「この程度、ロキの息子たちとやり合うよりはマシじゃよ。片方はお主が倒してくれたようじゃが、まだまだ甘いのう」
地面の中に居る俺と、当たり前のように会話をしている。
そういう眼の持ち主だろうと当たりをつけていたので、そこまで驚きはしないが。
ドローンを破壊しないのは、映像中継に徹しているからだろう。
俺もなんとなくそれを察していて、他の戦場でもまだそれ以外にはやらせていない。
「『ゴーストボディ』、『ポイントシャッフル』、『サウザンドエッジ』」
霊体化し、肉体を物理透過状態に。
その後罠を入れ替えることができる能力を発動し、その対象を千本の刃にする。
「ふむ……」
「──“アースクロー”」
「不意打ちは通用せぬよ」
「別に。上に出たかっただけだ──ついでに逃走もな」
土の塊を纏わせた巨大な爪を、転移からの不意打ちで行うがあっさりと防がれる。
オーディンは未来を視ることができるらしく、それは当然の結果だ。
しかし、未来が視えても対応できないこともある。
再び刃同士を媒介に、転移を起動──この場から一気に離れた。
残念ながら、まだ勝ち目はない。
ただ死んでいるだけでは、アイテムが増産されるだけなのだ……完成させなければならない、神を超える最高のプログラムを。
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