虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ラグナロク その11
「神様は無敵じゃない。特に北欧神話において、死という概念は絶対的なもの。つまりあれだ──敗北者はとっとと、退場してくれ」
「……ゴホッ」
星剣の刃、そして鹿の角でできた刃はそれぞれ肉の体を貫いていた。
共に血を吐き、体に深刻な影響を及ぼし、そして──仄かに光る。
「それが……『生者』の権能か」
互いに剣を刺し合ったが、結果は初めから決まっていたこと。
アインヒルドが敗北していない以上、権能は機能し続ける。
「そういうことだな。生を足掻き、藻掻いた果てがこれだ。生き永らえ、死してもなお生に縋って──何度でも蘇える」
「だが、決して無敵ではない……なるほど、やはり貴様程度が混ざろうと、ヴァン神族が今回の覇を得るのだ」
「ああ、そういえば主神はアース神族でお前らとは別だったな。ふむ、何か企んでいるみたいだな……けどまあ、俺には関係ない。最後に立っているのは俺だからな」
現時点での解析では、主神の持つ神槍には俺を一瞬で殺し得るだけの力は無いそうだ。
そして、一瞬で存在を消し去るナニカが無い限り、『生者』は何度でも蘇える。
「割とギリギリだったな……あっ、死んだ」
ショウの『プログレス』の派生能力が終了し、俺を強制的に殺す。
しかし『生者』によってすぐ、俺という存在は再構成されて元通りである。
「これがVRMMOじゃなくて異世界転移なら、恐怖すべきなのかな? 自分という存在が分解されて、再構成されるって……ほら、蘇ったのは自分と同じ情報を持っただけの別人なのかってヤツ」
《死に戻りのプロセスは、魂と魄双方を干渉しているわけではございません。あくまで、擬似的に構築された魄のみを読み取って再構成しております》
「……えっと、つまり?」
《バックアップが存在する肉体のデータを、読み込んでいるのです。そして、『生者』にもその補完機能が存在します》
なんだか字面が違っていた気もするが……今は気にしないでおこう。
俺に悪意を振りかざすなんて、ありえないからな……そうならとっくにやっているし。
「……おや、来てしまったか。俺はまだ、闘いたくなかったんだが」
「──フレイの坊がやられた、それだけで動く価値があるんじゃぞ。いつもは最終決戦まで残っておるんじゃが……ふむ、『生者』とは得てして言ったものじゃな」
眼帯付きの老人姿の神。
その手に握り締めるのは、けたたましく死の危険を放つ槍。
老人ならぬ老神──オーディンはからからと笑い、語り掛けてくる。
「──では、死合おうか」
それだけですべてが決まった……だからこそ俺は、死に抗う。
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