虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ラグナロク その09



 ──勝利の剣。

 北欧神話の神フレイが使ったとされる、神剣……創作物の定番であるレーバテインと同視されることもあるその剣は、使い手が正しい者であれば使い手の下を離れて戦う。

 究極的に言えば、担い手として認められれば何もしなくていいというチート装備。
 実際──目の前にいる神族は、何もしないでこちらを観ているだけだ。

「要するに、全自動の遠隔攻撃が可能な剣なわけだ。それで、お前自身は何もしないってことか? それとも、その鹿の角を使って打ち合いをしてくれるのか?」

「…………」

「困ったらすぐにだんまりかよ。まあ、油断はしないぞ。神話で鹿ってのは、神の眷属とかしもべみたいな存在が多い。その分神の恩恵を受けた個体が、よく誕生するからな」

 魔物もそうなのだが、動物としての身体的特徴となる部分が、より強化される。
 鳥の羽で風除けになったり、猪の角が鋭い槍になったり……いろいろだ。

 神話において、フレイは鹿の角で戦ったという記述が存在する。
 腰に下げているもう一振りの剣……それこそが、間違いなくそうなのだろう。

「まあ、今はこれを攻略するので手いっぱいだからな。それが済んだら、お前の相手をしてやるから待ってろよ」

「……貴様程度にできるわけがないだろう」

「あまり人類を、舐めるんじゃねぇって言いたいところだな。まあ、黙ってみてろよ──“ヘビーウェポン”」

 星剣二本の質量が増し、より多くのエネルギーを生みだせるようになる。
 それまで打ち合っていた勝利の剣を、凌駕する火力を得た。

 だが、勝利の剣はすぐに自身の速度を上げることで対応してくる。
 闘っていて分かったのだが、意外と厄介な剣だった。

 最適な動きだけではない、ブラフやはったりのような人間臭い行動を取ってくる。
 それが剣の意思なのか、はたまた経験則から行っているのかは分からない。

 だが、元は巨人族を相手に使われていた代物……機械仕掛けの小さな巨人と化している俺にも、何かしらの補正が働いているのかもしれないな。

「でも、そろそろいいか──“ワンダーハンド”。続いて“ミラクルハンド”」

 筋力と魔力で重量限界を定める腕を創り、勝利の剣を抑え込ませる。
 一本では足りず、新たに創り上げるのはもう一本の手。

 こちらは物体だけではなく、魔力に干渉可能という性質を持った手。
 ただ抑え込むだけでなく、魔力的な部分を塞ぐこともできるようになった。

 そう長くは持たない、早々に決着をつけるために[アライバー]を動かしフレイに攻撃する──そしてその刃は、あっさりと鹿の角で作られた剣に防がれる。


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