虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ラグナロク その04



 そして、さっそく始まったラグナロク。
 至る所で繰り広げられる闘争を、ボーっと眺めている俺。

 かつてここで戦った神の狼や蛇など、そういった巨大生物もこの場に居る。
 要するに神話に出ていれば、何でもかんでも出てきているのが現状だ。

 ヴァルハラに来た際に戦った守護獣も、実はヴァルハラチームに居るからな。

「『SEBAS』、ドローンを展開しろ」

《畏まりました》

「攻撃、防御の支援は無しだが、回復や補助の支援だけはやっておいてくれ。俺は例の縛りがあるが、他は蘇生OKみたいだし」

《仰せの通りに》

 アインヒルドは現在、俺の下から離れて仲間の戦乙女たちと共に戦っている。
 彼女が死ぬと俺も退場なのだが、それは問題がないという判断をした。

 なのでドローンを飛ばして、ヴァルハラからの参加者たちの支援を行う。
 ……脳筋たちが望まない支援は最初からゼロ、継続戦闘に関する支援のみを実行する。

「さて、俺も行くか──[アライバー]」

 名を呼べば、『SEBAS』が空気を読んで用意してくれた。
 外装型、一人を除いて女性にしか使えないアレみたいな感じの機体に乗り込む。

「北欧神話に機械はあんまり無いからな……さて、やりたい放題しますか」

 体を動かせば、俺の意思を読み取ってその補助を行ってくれた。
 そして機体が得た外部の感触は、そのまま俺にフィードバックされる。

 その手の先に握り締めた二本の剣を、俺もまた握り締める感触を覚えつつ振るう。
 相手をするのはこの舞台を大きく占領する巨大な蛇──世界蛇のヨルムンガンド。

「膨らめ[虚膨]、どこまでも」

 武具のストックは生産職として当たり前。
 かつて剣関係の職業レベリングに用いた星剣を、[アライバー]に装備させていた。

 最初から魔力を籠めて膨らませていたが、その性質である膨張をさらに高める。
 ドローンからの魔力供給を受け、普段よりもその大きさは異常なモノへ。

「──ハハッ、ここまでしないと無理か。普通なら、重くて持てないぞ。けど、これならアレが言えるか」

 星剣[虚膨]には重さがない。
 しかし質量はあるという、ファンタジー満載なチート武器だ。

 お陰でATK、というか筋力が皆無な俺でも使うことができる。
 そして、現在その大きさは──

「──約束されし月券利の剣工クスカリバー!」

 なんて叫ぶ程度に、膨らんでいた。
 しかも二刀流、それをそのまま世界蛇に向けて勢いよく振り下ろす。

「……ふぅ、前回は潜り込まないと勝てない相手だったのに、真面目に挑んで勝ったって気がするな」

《お疲れ様です》

「大型相手だと、神話でも殺されている奴が居るからな。英霊が挑んでも、難しいだろうし……さて、次に行こう」

 アインヒルドがピンチになるまでは、俺も自由にしていいだろう。
 そして彼女は強い……信じて待とう、そのときが訪れるまで。


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