虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス配布後篇 その20
俺はヴァルハラにおいて、意外と上位の人物だと認識されている。
この世界は武こそがすべて、故に強い者を尊ぶ理が働いていた。
虚弱な俺ではあるが、神々の試練を超えて目的の品を得たことで評価されている。
……だからこそ、交渉を吹っ掛ければ大半は戦うことを要求してくるのだ。
「──ふぅ、これで終わりっと」
「……全員を、こんなにも早く」
「『プログレス』があれば、こういうこともできるって証明になるだろう?」
「だからこそ、その力をより強く求める……考えたものですね」
先ほどまで英霊たちに勝負を挑まれていたが、ちょうど今それが終わった。
大量の『プログレス』の使用実験、加えて組み合わせを試すいい機会だったな。
「新たな実験に使えるデータがかなり収集できたな。しかしまあ、ここでも移植の選択ばかりだったのは驚いたけど」
「……単純な話ですよ。装備では外れてしまう可能性がありますし、装備枠を減らしてしまいますから」
「ああ、うん。脳筋的な考え方ってことか」
ちなみに装備中に『プログレス』を壊されても、また買い直せば問題ない。
バックアップ機能が働き、どの機器でも同じ性能を発揮できる。
……えっ、どこにバックアップしているかだって?
世の中には、知らない方が幸せなこともたくさんあるんだぞ。
閑話休題
英霊たちが次々と『プログレス』を移植していくが、神々からのクレームはない。
試供品だけでは数が足りなかった、だが俺がくれるならいいや……という感じだろう。
やはり力への渇望が強い英霊たち。
すぐに発現させる者が多く、誰も彼もさっそく戦いを始めていた。
「……さて、アインヒルド」
「その名で呼ばないでください……なんですか?」
「何か問題でもあるのか? 抽象的で悪いけど、なんとなくそんな気がしてな」
「…………。そう、ですね。間もなく神託が降りるでしょうし、貴方にも何かをしてもらいましょうか」
何か、と言われても具体的に何を手伝えばいいのかさっぱりだ。
しばらく待てば分かるとのことなので、周囲で争う姿を見ながら時間を潰す。
「俺は何をしてもいいのか?」
「そうですね。最低限、こちら側として行動していただければ」
「こちら側? つまり、その対となる集団が居るってことじゃ──」
肝心の部分を訊こうとしたそのとき、どこからともなくほら貝を吹くような音が高々と響き渡る。
《──旦那様、別世界との接続が確認されました》
「ああ、よーく見えてるよ」
空に掛かった巨大な虹の橋。
そこから現れる集団……なるほど、つまりはそういうことですか。
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