虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布後篇 その18



「迷わず移植を選ぶとは……感服しました」

 さっそく紹介した『プログレス』を移植した【獣王】、そして【野生王】。
 あれから現れて迷わず移植、試したいと言いすぐにこの場を去った。

 ……たぶんだが、すぐに発現するだろう。
 ああいった無邪気な心の持ち主の方が、純粋に力を求めてくれて──うん、いろんな意味で考えがシンプルな人が目覚めやすい。

「第一に、お前の持ってきたそれは多面的に利用できる。これを王として、他種族に負けないためにも使わないという選択はない」

「しかし、装備という形でも──」

「そして第二に、これは『生者』の勧める物なのだろう? ならば、使わないという選択はない。獣人族は契約を順守する精霊族には劣るが、闘いの勝者には敬意を向ける。そんなお前が持っていたのだ、当然だろう?」

「なるほど、それは……その、嬉しいです」

 真正面から信頼されると、さすがに照れてしまう。
 ちなみにこの一連の流れ、『覇獸』は聞いていない……気絶しているからだ。

「ところで……大丈夫なのでしょうか?」

「気にしなくていいさ。ったく、息子一人を盗られたくらいで剥きになって……恥ずかしいったらありゃしない」

「いえいえ、その気持ちよく分かりますよ。私にも息子と娘が一人ずついますので」

 子離れできていないとか、何とでも言うがいいさ。
 それでも俺は二人を大切にしているし、自分なりの愛情表現を続ける。

 ただ、世の男親たちが嫌われるのは、ひとえにその表現の仕方を間違えるからだな。
 ……正しくは子供たちに合わないから、それでも変えられないのが男親なのだ。

「ところで『生者』、今回はどれくらい居るつもりなのか?」

「説明が終わり次第、すぐにでも退散しようと思っていましたね。何かございますか?」

「……いや、まだ問題ない。ただ、近い内に呼ぶことになるかもしれない」

「…………なるほど、了解しました」

 まだそのときではない、というのはゲームでも定番だろう。
 必要なフラグを満たしていない……この場合は、時間経過がトリガーだ。

 ずっと前にこの国の近くに存在する大森林で、いろいろとあったからな。
 もしかしたら、それに関連していることかもしれない。

「では、『プログレス』のことで何か不都合がございましたらご連絡ください。そうでなくとも、その件についてお呼びでしたらぜひご利用ください」

「ああ、そうさせてもらおう」

 だいぶ配ってきたが、まだまだ残しているからな……さて、次はあそこに行こう。


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