虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布後篇 その17



 獣人国アニスト

 草原のど真ん中にある、獣人たちの楽園。
 休人たちには『モフモフパラダイス』とも呼ばれるその地を、俺は訪れていた。

 顔パスもあるので、向かうのはその中心とも言える王城。
 白色の兎耳女性と金色の虎耳男の前に、俺は向き合っていた。

「久しぶりだな、『生者』。今度は何をしに来たんだ?」

「『プログレス』を配りに。最近、休人たちが使っているのでは?」

「あれか? 金持ちが使うようになって、たまに挑戦の時に使ってるぞ」

「……挑戦、ですか?」

 そういえば、前にも同じようなことを言っている人が居たな。

「【獣王】ってのは詰まる所、最強の獣人だからな。たまにあるんだよ、自信溢れる奴らが挑むことが」

「我が妻は最強だからな。どんな輩もすぐに敗れる。だがたしかに……最近は、わけの分からない力を使う奴が増えていたな」

「それこそが『プログレス』です。獣人でも扱える魔法、本来適性の無いスキル、そういうモノを扱える可能性を秘めたアイテム……それがこちらの『プログレス』となります」

 ようやく本題に移れた。
 取りだすのは『プログレス』を起動させるために必要な、宝石型の装置。

 それを身に纏うか体に移植することで、使用者は『プログレス』の恩恵にあやかれる。

「他にも休人たちの使っている権能を参考にしまして、[ストレージ]や[ウィスパー]といった便利なこともできますね」

「……色んな面で、常識がぶっ壊れるな」

「むしろ、使わない者がこの先の敗北者となるのではないか?」

 一定数のアイテムを、時間が停止した状態で持ち運びできる[ストレージ]。
 同じ位相の世界内に居るならば、どこからでも会話ができる[ウィスパー]。

 休人たちにとってはただのシステムだが、この世界の人々からすれば希少な能力だ。
 前者は運搬・輸送の、後者は通信・諜報として非常に役立つからな。

「そちらはあくまでおまけです。詳細に関しては、こちらの説明書を読んでいただければ理解できますので。その本で理解できないのはただ一つ、一人ずつ異なる能力の方です」

「それは俺でも使えるのか?」

「はい、【獣王】さんは可能ですね。しかしながら、『覇獸』さんは『超越者』ですので使用不可能です。すでに便利な権能がございますし、問題ありませんよね?」

「……くっ、我が妻とお揃いの能力を発現させる気でいたというのに!」

 たしかに、相性のいい二人組で似たような能力を発現させる例はあるらしいけど。
 二人じゃ、無理だろうな……と草食肉食夫婦を観ながら、思う俺であった。


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