虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布後篇 その16



「──とりあえず、これが『プログレス』だから渡しておく」

「ふぅん……これがあの。『超越者』が使えないって話は聞いていたけど、その理屈に関してはさっぱりだったんだよね」

「詳しくはそっちに載せた資料を見てくれ。要点を掻い摘んで言ってしまえば、可能性を閉じるために禁止してある」

「なるほどなるほど、それは納得がいく」

 組織という『超越者』に対する監視機関。
 そこに属する王女様に、『プログレス』を提供する。

 ある意味では、『超越者』への裏切りとかそういうことになるかもしれない。
 だが俺って、『超越者』にも存在する集団グループに所属していないからな。

 説明書を読んでいる第二王女テーリアに、仕上げていたタコ焼きを渡す。
 最初は読むことに没頭していたが、鼻がピクッと反応するとすぐに気づいてくれた。

「『生者』さん、これは?」

「普通にタコ焼きだな。今回はタコだけしか売ってないからな……もしかして、他の味の方が良かったか?」

「ううん、これでいいんだけど。どうして、ここまでしてくれるのかなーって」

「別に理由はないぞ。ただ、俺は俺がやりたいようにやっているだけだ……『超越者』はそういうものじゃないか?」

 己の道を追求した結果、何らかの形で世界の許容範囲を超えた逸脱者。
 それこそが『超越者』であり、我欲を突き詰めた探究者。

 彼女たちにとって、俺たちのやることの意味が分かっているかどうか。
 少なくとも俺は、家族のためって一貫すべき理由があるんだけどな。

「それは……そうかも」

「俺としては蒐集家のお前・・・・・・の魂胆の方が気になるけどな。ちなみに俺は、俺として強くは無いから何も意味無いぞ」

「…………あれ、もうバレてる?」

「アレから結構過ぎたしな。まあ、調べることもできるだろ。それに、そっちが視ようとしたからこそ、視ることができたんだぞ」

 俺がかつて作り上げた魔道具には、他者が行った鑑定や解析系のスキルをカウンターでぶつけ返すことのできる物があった。

 昔は使い捨てだったが、『プログレス』の能力を組み込むことでいつでも使えるようになっていた。

 とはいえ、それは今の話。
 過去に視られたものに関してはどうしようもない……のだが、結局現在のことなら、相手の情報を暴くことができる。

「視るものを種族と職業だけに絞っていたのは正解だったな──【追憶魔法師】、なかなか面白そうな職業だな」

「……本当に視れるんだ、凄いね」

「まあ、それはいいや。俺がそっちから情報が貰えるように、俺からも多少は提供した方が良かっただろう? ……俺を視ても、無駄になるって情報がさ」

「うーん……なかなか食えないね」

 観た事象を具現化する、『プログレス』でも存在する能力を魔法として彼女は扱う。
 つまり魔力さえあれば、ありとあらゆる事象が使えるようになるのだ。

 だからこそ、彼女は組織に居るのだろう。
 もっとも多く、世界一の事象改変を行う者たちを見ることができる場所なんだからな。


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