虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布後篇 その14



 N14 氷の城

「──というわけで、お土産だな」

「……嫌味?」

 人の住むことのできない極寒の地。
 人ならざる者が統べ、管理している氷の城の中でのやり取り。

 水分を操る『超越者』。
 雪妖精の『白氷』の下を訪れた俺は、彼女に『プログレス』を配っていた。

「最近、人族たちがよく使っているヤツだったわね? ここから覗いているけど、急に使いだしたから気になってはいたわよ」

「ほほぅ、こんな地にまで……」

「けど、あたしたちは使えないんでしょ? そういうことだって、ここにちゃんと伝わってくるんだからね」

「ん? まあ、そうだけどな。だってお前らに渡したら、権能と相まってより最悪になるだろ。だから制限してあるんだ、『騎士王』が使えたらどうなるか……分かるだろ?」

 この世界の『超越者』共通の常識。
 世界が関わる事象において、『騎士王』とは不敗の存在である。

 そりゃあどの分野で誰が優れているとか、権能を持つ同士で競えば勝てるジャンルもあるかもしれない……が、世界に関わる事象に挑戦した際、勝つことは不可能なのだ。

 現在、【魔王】が人族に危害を加えることができるのも、星の定めたことだから。
 仮にその一線を越えてしまえば……文字通り無敵の騎士が、【魔王】を屠るだろう。

「た、たしかに……」

「もし誰かが使えれば、必ず『騎士王』も使えるようになる。可能性が0だからこそ、現状に落ち着いている。たぶんアレ、少しでも可能性があれば何でもやるぞ」

「……そういえば、そうね」

 ネーミングセンスはともかく、自在に魔術の開発ができるようなヤツだし。
 これは『SEBAS』でも難しいらしく、理論よりも直感がモノを言うそうだ。

 ……正確には開発をするなら、だけど。
 調律や調整をするのであれば、やはり最高は『SEBAS』なんだぞ。


 閑話休題まじゅつはふかしぎ


 今回、『プログレス』を届けに来たのは何も嫌がらせのためだけではない。
 ちゃんと彼女にも益がある、れっきとした取引としてである。

「──とこのように、このアイテムを介することで指揮系統を構築することができる。持ち主のお前がトップ、その配下でさらにその配下……まあ、国みたいなものだ」

「さっき、使えないって言ったばかりなんだけどね」

「まあ、気にするな。これは特別製……というか試作品でな。二つの能力を組み合わせてある、世界にまだ一つもないアイテムだ」

 無機物を操る『リビングドール』に加え、一定数の地位に任命することで準じた強化を施す『ポイントアポイント』。

 共に初期段階なのでそれ以上のことはできないが、そもそもそれが不要なくらい強いのが『超越者』である彼女なので問題ない。

「まあ、こっちでデータは採ってる。暇なら使ってくれればいい……ただし、絶対にアイツに渡すなよ。悪戯とかそういうレベルじゃすまない、本当にヤバいことになる」

「……うん、本当にそうなりそう」

 俺たちの中で、もう決まった。
 ──『騎士王』には絡んではいけないと。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品