虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布後篇 その13



 隠れ里に住まう山人たちの長。
 彼は非戦闘職でありながら、『超越者』として強大な戦闘能力を保有する武人だ。

 その権能は『造槌』。
 その手はいついかなる時も槌となり、ありとあらゆる武装を創造する。

 先ほど行った壁の構築も、その権能による物……瞬時に大量の盾を生みだしたのだ。
 権能は模倣済みだが、俺でもそんなことはできない……本人の才が凄すぎるのである。

『ったく。すぐに宴の準備を始めねぇと、暴動か革命が起きるかもしれねぇな』

「暴動はともかく、革命ですか?」

『現状、酒の隣に居るのは俺だかんな。いつまでもこのまんまってことなら、間違いなくそうなんだろぉよ』

「……それは、さすがに気が引けますね」

 俺も『SEBAS』も、少々見誤っていたのかもしれない。
 そもそもここは隠れ里、ここだから得られる物もあれば、そうでない物もある。

 酒がその主たる物。
 各種族で酒を作ればそのシェアはできるのだが、外部の酒は無いため既知の物が増えていく……それゆえ、未知が貴重になる。

 本能レベルで酒好きが刻まれた彼らにとって、そこだけが不服な部分だろう。
 故に外交が始まって求めたのは、技術よりも酒に関する事柄だったからな。

「とりあえず、こちらで酒のつまみになりそうな物もセットで用意してあります。初期の分は、無償で提供いたしましょう」

『後半になりゃあ、勝手に自分たちで好きなもんを持ってくるだろうさ』

「そうですね。では、警護をお願いします」

『報酬は高くつくぞ』

 ちょうど支払えそうな物が、ここにはたくさんあるからな。
 しっかりと守ってもらって、安全を確保してもらおうか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 祭りは大盛り上がり。
 山人たちは酒を酌み交わし、高揚した気分でさまざまなことを成した。

 お陰で今まで頓挫していた生産技術が、なぜかブレイクスルーしたりと……酒の力の偉大さを、改めて感じた時間だ。

「──『プログレス』の方ですが、物々交換という形でよろしいでしょうか?」

『ああ、構わねぇよ。しっかしアレだな、まるで『超越者』が増えたみてぇだ』

「それを望んでもいますから。特別なのは、皆同じ……そういった認識の方が、生きやすいでしょう」

『……ああ、そういや耐えられねぇ心の奴らも居たっけな? それに、お前らは死なねぇくせに声はデケェからな。ったく、僻むよりも先に努力しろってんだ』

 山人たちの在り方は鍛冶に近い。
 己を鍛え直し、砕けぬ意志を持って力強く生き抜く……他の影響も受け入れ変わるが、根幹である芯が歪むことは拒む。

 そんな彼らだからこそ、休人たちのことをそう評する。
 個人の関係は別としても、種族というか集団としての評価はそんな感じだ。

「……それで、どうですか?」

『いいぜ、乗ってやるよ。今はそのときじゃねぇが、いずれやってやる』

「今はそれで充分です……ありがとうございます」

 この取引が意味を成すのは、はるか先のこと……だが、間違いなく必要なこと。
 俺や『SEBAS』ができないことも、この世にはあるんだからな。


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