虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス配布後篇 その12
『おぅ、久しぶりだな、ツクル。さっきは悪かったな、ちょうどいいとこだったんだ』
山人の隠れ里、その最奥部にある鍛冶場。
太陽のような熱が放たれる中心部で、俺を待つ山人が一人。
里の誰よりも逞しく、強靭な肉体を持つ。
しかし、それ以上の特徴は……腕にある。
そこには俺が渡した輪が嵌められており、彼の声を拡声している。
──物凄く声が小さいのだ。
故に俺がここに来る前に、文字通り技術はその姿で教えるというやり方しかできずにいた……本人は教えたがっていたそうだが。
「いえ、皆さんのそういったところを、好ましく思っておりますので。私に掛ける時間よりも、少しでも多く鍛冶をしていた方が山人らしいと思えます」
『ハッ、違いねぇ。だが、お前さんのアレでその時間も少しは増えたんだ。その分くれぇは割いてって誰も文句は言わねぇよ』
「そうかもしれませんが……やはり、価値あるモノであったと、言われたいですので──こちらをご用意いたしました」
時間の止まった[ストレージ]から用意したのは、かつて真・世界樹の蜜を使って作り上げた幻の酒……世に出回ることのない、極上の逸品である。
『……酒飲みの経験が警鐘を鳴らしている。すぐに仕舞え、それを』
「いえいえ、ご安心を──この日を祝うために、私も全力を尽くしましたので」
忘れられているかもしれないが、俺には神代魔道具から創りだしたコピーアイテムがある……酒だって、増やすことが可能だ。
問題はただのアイテムと違い、高位のアイテムは必要なエネルギーが尋常ではない点。
魔石ではなく、高純度の聖なる力だったり神の力だったり……さまざまである。
だが、それらすべてを補えるのが星の力。
足りない分はちょいとコピーして、里中で数杯は呑めるように数を揃えてきた。
『チッ──『壁』!』
そうして酒樽を大量に並べたその瞬間、里長は地面に勢いよく手を叩きつけた。
すると、辺りに無数の巨盾が並び俺と里長の姿を周囲から隠す。
「……ああ、なるほど。しかし、相変わらず素晴らしい製造速度ですね」
『狙ってのことか?』
「まさかまさか。いえ、私としても少々予想外ですよ。匂いを嗅ぎつけ、すでに里中の者たちが集まっているとは」
山人たちの酒に対する執着は、竜にも比肩するレベルだ。
そのためか、酒に限定した超感覚のようなものがあるとされている。
……実際、酒に関する『プログレス』も確認されているからな。
世の中、自分の好きに執着したからこそ得られる力もあるのだ。
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