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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布後篇 その07



 山人の隠れ里

 ここに来る前から、もう分かっていた。
 近づくにつれて音は大きくなるものだが、数キロ前から聞こえるのは異常だろうに。

 お陰で音に関する『死天』のアイテムが、微音から爆音まで大量にゲットできた。

「……そ、騒音が凄い」

《最適な『プログレス』を検索……起動──“サウンドシャッター”を発動します》

 俺は『超越者』なので、『プログレス』を使うことはできない。
 しかし、創造者としての権限で、あらゆる『プログレス』を使うことができる。

 ただし、自分オリジナルは存在しないし、あくまでも他者のモノを借りるだけ。
 おまけにその時点での『プログレス』をコピーするので、進化も成長も不可能だ。

 さらに言えば、俺が使おうとしても能力の数が多すぎるため、最適なモノを選べない。
 これは『SEBAS』が居るからこそ、可能な裏技なわけだ。

 今回発動した“サウンドシャッター”という能力は、一定空間の音を断つものらしい。
 隠れ里の入り口から漏れた爆音は、領域内に収まることでようやく鎮圧された。

「恒常的な物にできるか?」

《内部の結界は正常に作動しておりますし、“サウンドシャッター”を組み込んでおきましょう》

「なら、頼むか。こっちの装置に移し替えてから、洞窟に置けばいいんだろう?」

《はい。以降の処理は、こちらにお任せください。術式に余裕もございますし、新たに組み込んでおきましょう》

 俺が『プログレス』を使う仕組みは、媒介となる装置に能力のデータをそのままインストールするというもの。

 それは『SEBAS』がデータとしてすべてを管理し、送信するからできること。
 なのでそのデータを、俺が使う以外の方法で扱うことも可能である。

 隠れ里に展開した結界は、俺と山人たちで造り上げたモノ。
 レアな素材をふんだんに使って、当時出来得る術式で音漏れを塞いだ。

 しかし現在、それが無駄になるレベルの騒音となっている。
 アップグレードした術式を使えば、余剰を残したうえで結界を転用できるか。

「じゃあ、行くとしよう。いったい何を作ればこんな音になるのか気になるしな」

 結界を通り、里の中へ向かう。
 止める者はいない……全員でモノ作りをしているので、居るわけもないのだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そして、俺たちは観ることになる。

「……いやいや、尋常じゃないな、これ」

《『プログレス』が叶える願望が、一つに収束した結果……でしょうか。これもまた、成功の形なのかもしれません》

 彼らの深層意識、欲望、強い想いが現状を生みだしたのだろう。
 近代化が進み、さらに先へ──理解できない世界がそこには広がっていた。


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