虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

眷属への天啓



 アイプスル

 激しい闘争を繰り返していたが、俺の本来の目的を忘れてもらっては困る。
 知人たちに、『プログレス』を配る……これが当初の目的だったはずだ。

 順番が多少ズレてはいるが、今のところだいたい順調である。
 だがまあ、『超越者』たちには無用の産物なんだよな。

「知り合いのほとんどが『超越者』だし。配下が居る奴ならともかく、孤独な奴らには嫌がらせにしかならない」

 巷でウワサのアイテムを渡されて、それを自分は使用不可なんだから。
 とはいえ、『辻斬』に渡したようにやりようはある。

 指定した『プログレス』の能力を媒体に落とし込み、それを介すればいいのだ。
 成長しないし、一定の性能しか出せないのだが……それでも能力は強いからな。

「プログレス、アレからどうだ?」

「そうですね……善悪問わず大量の能力が発芽しております。中には人為的な変貌を実行しようとする者も」

「何でもありだからな。魔石による変化よりも、精神を弄る方が速いか?」

「断言はできませんが、その通りですわね。個人のパーソナルを参照して発現させている以上、魔石による能力変質よりも、そちらの方が変動の幅が大きいように感じられます」

 神・世界樹の下、神壇である洞にて。
 世界の認識、そして神々のサプライズにより誕生した俺の眷属神──プログレス。

 メイド姿の彼女は、『SEBAS』と同等の『プログレス』に関する知識を有する。
 なのでその情報を訊きに、俺は直接彼女の下を訪れていた。

「なるほどな……参考になったよ」

「ありがとうございます。あの、ご主人様。少しご相談がございまして……」

「相談? まあ、俺でいいなら聞くけど」

 俺と『SEBAS』、アイプスルなどすべての事情を知っている彼女なので、話をするなら俺ではなく『SEBAS』の方がいいことは重々承知のはず。

 それでも俺を選ぶと言うなら、真剣に答えることにしよう。

「実は……まだ私には、秘められた能力が存在したようなのです!」

「な、ナンダッテー! ……で、詳細を」

「あっ、はい。先日、天啓を授かりました。曰く、『マスターを冠する能力を集めよ、さすれば新たなる力を授けん……ぷぷっ、どうどう、これって結構神様っぽくない?』とのことです」

「……後半、止め忘れた録音みたいだな。けど、マスター系か。難易度が結構高いな」

 無数に存在する『プログレス』の中でも、特に何らかの概念に特化した能力たち。
 その能力名であったり、派生した能力だったりとバラバラなんだけど。

 前に『SEBAS』と話をしたとき、発言者の数は十指にも満たなかった。
 集めろと言われてもな……いろんな意味でハードルが高いのである。


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