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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

支配者会談 その19



 もともと【非業商人】は、この街そのもので金儲けは考えていなかった。
 彼なりの考え方があり、それはすべてが金のためのもの。

 悪として振る舞ってしまえば、いずれそれが罪として裁かれることになる。
 ならば善として、中立者として振る舞うことを選ぶ……そういう人間なんだろう。

「──各領域はこれまで、その地域特有の空気で染まっていました。『拳王』様の地は好戦的、『賭博』様の地は退廃的、【奴隷王】様の地は悦楽的、【情報王】様の地は……言うまでもありませんか」

「おい、どういう意味だ」

 誰もがその言葉に納得して頷いており、否定するのは本人だけ。
 ……そりゃあな、言葉にできないほど黒いウワサだらけだし。

「そこで提案するのは、各領域との接続。それらすべてを中立域を中継するものとして、交流を円滑にするわけです」

「……闇厄街はどうなる」

「『生者』さんより、転移装置を提供していただきました。休人の方々もご利用できる装置となっておりますので、彼らもそちらを主にご利用するかもしれませんね」

 休人は、特定地点に置かれた『セーブ石』と呼んでいるアイテムの下へ移動できる。
 アイテムだけではなく、星脈の湧き出る場所じゃないとダメなんだけど。

 三つの街は神代魔道具。
 内部のエネルギー機関はすべて、魔道具自体が担っている……そこをちょいと弄れば、セーブ石を維持できる分は確保できた。

 これまでは闇厄街に行くには、面倒な道を通る必要があったので、全然休人も来ない廃れた場所ばかりだった……が、それもこれからは改善するだろう。

「【革命英雄】様、そして『薬毒』様には後ほど事業に関する相談をさせていただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

「う、うむ……それは良いのだが……」

「私もですか? それは構いませんが……」

 あまり商人向きではない二人に、これからの闇厄街を委ねようとするのは……ちょっとやり過ぎかな?

「【非業商人】さん、そのくらいで。対応可能な者は闇厄街にも居りますので、そちらの方々と折り合いを付けましょうか」

「そうですか? ここで決めてしまう方が、良いと思うのですが……勝者であるツクル殿に従うことにしましょう」

 分かり切っていたことでも、そういったていは採らねばならない。
 二人は善良すぎるからな……こういうときにいつもは、支えてくれる人がいるのだが。

 今はいない以上、多少のサポートは必要になってしまう。
 本当の善人が生きていられるのは、周りの環境を他が整えている場所だけである。

「それでは、皆さんお疲れさまでした。これからこの街をよりよくしていくため、どうかご協力お願いします」

 最後にはそんな纏めをして、会談はお開きとなった。
 ……だが最後に、もう一仕事やっておかないとな。


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