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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

支配者会談 その15



「っ、はぁ! ……まさか、ここまで追いつめられるとはな」

「それは……外装ですか」

 居合斬りで武器を切り裂き、追い詰めたはずだった。
 しかし突如、【情報王】の衣服を引き裂いて現れたのは──機械仕掛けの鎧。

 虫の脚を模した堅固なアーム。
 先端は鋭い刃のようで、八本の脚には異なる魔法が術式として仕込まれている。

「『機械皇』さんは、そのような品を創っていないと思うのですが……」

「『超越者』が世界の先を担っているわけではない。機械製作に長けた者たちが集い、生みだした武装──『機背蟲』。燃費が悪いがこの状況だ……致し方あるまい」

「そうでしたね。世界は誰かの物ではなく、皆で共有すべき物……といったところでしょうか? では、手段を変えましょう」

 起動していた『ソードホルダー』を解除。
 結界の再現も初期状態にして、俺としての貧弱状態へ。

 だが、これまでと少し違う点が一つ。
 腕に装備された機械チックな籠手。
 解析能力を持つ【情報王】なので、すぐにその正体に気づく。

「──『機械帝の手腕ロード・オブ・メカニクル』……ずいぶんと仰々しい名前だ」

「その名に相応しい能力でしょう? 触れた機械を、掌握して破壊する。はるか昔に創り上げた逸品なのですが……最近、また新たなシステムで強化ができましたので」

 支配権を奪う『オールコントローラー』という『プログレス』を組み込んである。
 条件を機械だけに縛ることで、その性能はより高いモノとなっていた。

 最初から機械特化の『プログレス』にしたかったが……まだそこまで辿り着いた者が居ないようなので、今はこれにしてある。

「では、続きを。触れたら負けの鬼ごっこですね……負けませんよ?」

「……お前の土俵で戦うと思うな。今度は誰の真似をするのだ?」

「いえいえ、ありのままで勝負しますよ。時に世界は、計算不可能な現象を起こします。そのことを体で示してみようかと」

 さっそく【情報王】に近づく。
 何があるのかと考えるのだが、俺に特別な策などは存在しない。

「……何のつもりだ?」

「いえ、これがありのままの自分ですよ」

「遅い……遅すぎる」

 現在、“精辰星意”が起動して弱体化している【情報王】……よりも遅く、俺は全力で走り続けている。

 そりゃそうだ、どれだけ強化しても俺の基礎能力値はほぼすべてが1。
 その中には敏捷度も含まれており……そして、それは本来0に近い1だ。

 愚者の、弱者の、存在しない底辺の行い。
 それは本来、決して意味を成さない……しかし、【情報王】には通用する。

「まったくの0、そして通常の1は知っているでしょう。しかし、0に近い1の能力値は把握していましたか? それでありながら、生命活動を維持できる存在を」

「ッ……! そういうことか」

「強者であれば、この世界においてごまんといるでしょう。しかし、弱者は? ステータスにすら呆れられ、お情けの切り上げを与えられた虚弱さを……貴方は知らない」

 なんてカッコいいことを言っているが、呼吸を魔道具でサポートしなければ一言も発せれないレベルで弱っていた。

 バレないように、強者ロールを雑魚のままやり通して……このまま屈服させる!


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