虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

支配者交渉 その04



 暗躍街 中立域

 誰にでも同じく対等に、ありとあらゆる商品を手に入れる商人。
 金さえあれば何でも用意し、金を失えばすべてを奪う……まさに非業の商人。

「──構いませんよ。ええ、ぜひとも参加させていただきます」

 そんな男は現在、俺から受け取ったチラシに書かれた要件を受け入れた。
 情報収集も完璧なようで、会ってすぐに俺との会談を開き、すぐにこの場に至る。

「時は金なり、いい言葉ですね。時間を金で買うことができる、それを体現しています。それを聞いた休人の方々は、皆一同に意味が違うと申されますが……そうでしょうか?」

「私たちの世界では、スキルも職業のシステムもございませんので。時間に干渉することはできておらず、せいぜい脳を弄り体感速度の書き換えが精一杯です」

「ふむ、そういった方法もあるのですか。休人の方々はとてもユニークな考え方をするのですね。やはり、魔力が無いからこそ、そういった発想が浮かぶのでしょうか」

「そうですね。むしろ、私たちの世界における昔の人々からすれば、時に干渉するという考えそのものが、禁忌に触れるということになるかもしれませんね」

 ちなみに、現在も周囲の空間の速さを遅くする魔道具を使っていた。
 時間を大切にする商人にとって、この会談すら無駄として認識されているのだろう。

「──【非業商人】さん、一つご確認したいのですが、【情報王】さんに『プログレス』の販売を行ったのは貴方ですか?」

「ええ、そうですよ。少々入手に手こずりはしましたが、自負している通り私に得られないアイテムはございません。ですが……それでも不可解な点がございましたね」

「不可解、何のことでしょうか?」

「貴方ですよ、『生者』ツクル殿」

 その目は値踏みをする、いつも仕事で視るような眼差しだ。
 ……なるほど、その死因で何をしているのかがよく分かった。

「視ても分からないことが、ですか?」

「それも含めて、でしょうか? 私の向けた視線に気づいたこと、そちらはいくらでも理由を付けることができます。しかし、貴方がもたらした技術革新は、明らかに休人というだけでは示すことのできない神業ですよ」

「神業、ですか……偉業ではなく」

「ええ、神業ではありませんか。蘇生薬、薄めているようですが、売っているという話は聞いておりますよ」

 蘇生薬を極限まで希釈することで、通常よりも質の良いポーションとして売っている。
 それを知っているのは、本当にごく僅かのはずなんだが……やれやれ、不思議だな。


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