虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

霊子変換室 その05



 少しずつ、霊子変換室に入ってくる休人の数が減ってきた。
 仕込んだ『サウザンドエッジ』と『デッドタナトス』で、再蘇生時間が伸びたからだ。

 課金アイテムでデスペナの時間を減らすことはできても、アバター再構成までに必要な時間はまだ解消されていない……そこを突いた、苦し紛れの対策である。

「──けどその分、本当に強い人ばかり来るようになりましたね!」

「依頼はずいぶんとつまんねぇ内容だったけど、お前みたいに面白い奴が居るなら大歓迎だ! 知ってるぞ! お前、もうここで何十人と死に戻りをさせている奴だろ!」

「……それが何か?」

「いいねぇいいねぇ、面白い! さぁ、いざ尋常に勝負をしやがれ!」

 残っているのはただ一人、しかしその男がなかなかすばしっこい。
 脚力に関するスキルでも持っているのか、何でもかんでも回避するんだよ。

 盛り上がる休人は、靴型の『プログレス』の能力で加速して突っ込んできた。
 ……そう、奇遇にもそれは、俺がかつて使用した『スピードスター』だ。

「最初から全力だ──“フルドライブ”!」

「──“献魂一擲”」

「んだそれ、ナイフか?」

「メスですよ、追尾式の」

 魂すらも傷つける短剣、モルメスを走り抜ける男に向けて放つ。
 凄まじい速度で動くので、それを避けようとするが……モルメスは追いかける。

 周囲には死神の鎌、当たればそれだけで体に悪影響が及ぶ。
 それでも走り走り、この広い空間をひたすら駆け巡る。

「【走王】になった俺についてくるとは、武器の癖になかなかやるな!」

「走っている際に魔力、もしくは精気力を消費していますね? モルメスの推進力は、それらを糧に増大しますよ」

「へっ、いいことを聞かせてもらったぜ。なら、こうしてやるよ!」

 てっきり俺は、どちらかの消費を止めるのかと思った。
 だが実際、男は使うのを止めず……むしろ消費力を増して加速する。

「そして、このままお前にこの短剣をぶつけてやるよ──“瞬脚”!」

「っ……! ぐぁあああ!」

「へへっ……へっ?」

「ぁあああ……あぁああ、終わってしまいましたね」

 瞬間移動で俺の後ろに立ち、短剣を突き刺す……そこまではよかった。
 しかし俺は死ぬことで一時的に物質を透過し、そのまま男にモルメスが届く。

 なお、『SEBAS』がシステムの掌握に走っていたのは、このためである。
 俺もまた、本来は霊子変換室の強制死に戻り対象、その対策をせねばならなかった。

 今では部分的に掌握したので、俺は死ぬと回収されたうえで……この地で再生される。
 あとは『生者』の権能が機能して、何事もなかったかのように生き残ることが可能だ。

「……生存特化の、能力かよ」

「まあ、そんなところですね。こんな場所でただ一人、皆さんの相手をしているのですから、そういったタネの一つぐらい用意しておかなければ」

「そういう、ことかよ……」

「では、またいずれ──“ソウルハント”」

 近くにあった『デッドタナトス』の能力を発動させ、魂を一時的に鹵獲する。
 これでしばらくは死に戻りできない……もうそろそろ、底が尽きるはずだ。

 そして、同時に高まっていた難易度がよりいっそう上がる。
 次に来るのはおそらく……十指に入る強さの持ち主だな。


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