虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス配布中篇 その19
いったん、暗躍街に戻ってきた俺。
向かう先は、かつて【革命英雄】によって無血革命が成された──【暗殺王】の領域。
暗殺ギルドという、ギルドの中でも異色の地を訪れる。
自分が『生者』だと説明し、奥に案内してもらうと……そこに目的の人物がいた。
真っ黒なローブに身を包み、容姿まで隠した人──型の魔物、【暗殺王】。
「お久しぶりです、【暗殺王】さん」
『……ひっ』
「そんなに驚かれなくとも。ああ、口調を戻すのを忘れていました……久しぶりだな」
『……久しぶり』
かつて、俺を狙った暗殺者のトップ。
俺が渡した魔道具によって拡声し、その怯え声を伝えてくる。
まあ、無敵なスライムボディを苛め抜き、死を感じさせたわけだからな。
せっかく弱点を克服したのに、絶対にどうにもならない部分を突かれたわけだし。
そんな彼、彼女?……まあ、【暗殺王】を説得後に依頼をしたのだ。
以降の暗殺依頼は拒否、強引にやろうとするなら俺を通すようにしろと。
いちおうさ、交渉したときは高くつくとかカッコいいことを言ってはいたんだ……だがしかし、この姿を見るとなぁ。
俺としては平和的な関係を望んでいるのだが、【暗殺王】は今なお怯えているようで。
……まあ、俺も『生者』の権能をフルに使い敗北したら、そんな感じになるかもな。
「とりあえず……これをな。『プログレス』なんだが、知っているよな?」
『! ……な、何をさせる気?』
「いやいや、ただの商談だよ。欲しいだろ、これ。こっちもいちおうは商人だからな、適正価格で売っているんだ」
『…………』
まあ、怯えていてもスライムという種族は知性さえあれば優秀だ。
全身が同一の細胞で構成されているので、人の何千何万倍も思考できるからな。
すぐに金を用意した【暗殺王】に、初期状態の『プログレス』を渡す。
ついでに本人にも装備を行わせるのだが、そこは移植を選んだ。
「なんで移植なんだ?」
『スライムだから、装備枠が少ないの。だから、こっちの方が都合がいい』
「……それに仕掛けがあるとか、そういうことは考えてないのか?」
『するの? しないでしょ。そっちの方が立場は上、保険は掛けても、それはすべてに備えている物。今さら足掻いても、どうせ逆らえないわけだし』
まったくもってその通りである。
いちいち細工するのは面倒だし、もともとする気もなかった。
さて、発現がすぐに無かったということなので、必要とすることは無いだろう。
なら、いくつか頼むこともできる……とりあえず、『眼』を避けて頼まないとな。
コメント