虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

プログレス配布中篇 その18



「──お久しぶりですね」

「ああ、貴方は……お久しぶりです」

 さて、いろいろと熱い展開になりそうな英雄様とのやり取りだったが……すでに屋敷を出て、次の人物に会いに来ている。

 白衣を纏った青年は、初めてあった頃とは違いそれなりに身だしなみを整えていた。
 今や闇厄街における二大救世主の一人なのだ、そういうことも必要なのだろう。

「『薬毒』さん、あれから何か困ったことはございますか?」

「いいえ、『生者』さん。ただ救急箱の中身が少し乏しくなりまして、別の場所で仕入れた類似品を使っているぐらいですかね?」

「そうでしたか、では後ほど新しい物をご用意させていただきますよ」

「なんだかすみません……お願いしてしまったようで」

 彼が居たからこそ、病で苦しんでいたここの人々は救われたのだ。
 俺のように万能薬をバラまくのではなく、しっかりとした治療をして。

 彼のような在り方を俺は尊敬しており、できる限り援助したいと思っていた。
 ……この世界では金ならいくらでもあるので、好きなだけ援助できるわけだ。

「──というわけで、こちらです」

「これは、プログレスですか? しかし私たちは、これを使うことは……」

「いえ、自身の力を開花させることができないというだけでして、他者の能力を複製した物は使うことができます。問題は、相応の触媒と協力者がいなければ、それを実行することができない点ですね」

 改めてシステムを作り上げたのだが、俺以外でも『プログレス』のやり取りが限定的にだができるようにしてみた。

 必要なのは『プログレス』と触媒の宝石。
 あとは宝石にインストールするだけで、アイテムに『プログレス』の能力を付与できるという簡単なシステムだ。

 ただし、孫コピーは不可。
 おまけに絶対劣化するし、使用制限などもあるうえ複数の所持すらできない。

 ……あっ、俺は例外だぞ。
 劣化ゼロでインストール可能だし、好きなだけ持てるし確実に使うことができる。

「ここには、『ドクターカルテ』という能力が登録されています。これを、こちらの新たな救急箱に──“合成”!」

 溜め込んだ経験値で、職業能力を常時使えるようにしてあった。
 今回使った“合成”は、瞬間的にアイテムの組み合わせができるというもの。

 ……普通に錬成陣とかを使った方が速いのだが、そこはまあ演出である。

「これで、『薬毒』さんでも使うことのできる『プログレス』が出来上がりました。効果の方は、こちらのメモに記してあります」

「……これは!」

「気に入ってもらえましたか?」

「ええ、もちろんですよ!」

 なんて会話をすると、すぐにやるべきことがあるとこの場を去る『薬毒』。
 どこかで誰かがまた救われ、感謝の声が響き渡る……本当、いい人なんだよな。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品