虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布中篇 その16



「……権力ですか?」

「違う!」

 目の前にそびえる屋敷を見た感想に、即答する【革命英雄】である少女。
 もとは周囲の建物と、大差ないような場所だったはずなんだがな……。

「私は何も言っていない……だが、思いのほか、人々は私の行いに恩義を感じていたようでな。君が居なくなった後、少しずつ改築が行われていったんだ」

「それでこうなったわけですね。なるほど、とてもよく頑張ったのですね」

「君の提供した例の魔道具、あれが無ければ間違いなく無し得なかったことだ。改めて、礼を言おう──ありがとう、『生者』よ」

「お気にならさず。代わりに頼みたいこともまた、たくさんありますので」

 屋敷の中に入り、案内された部屋の中ですぐに本題へ移る。
 とりあえず【情報王】の『眼』は飛んでいないが、いつまた来るか分からないからな。

「──『プログレス』、ご存じですか?」

「ああ、最近ウワサになっている、誰でも得られる怪しい魔道具の話だな」

「…………」

「民たちは私の分だけでもと言ってくれてはいたが、私自身はその怪しげな物を信用していない。突然現れたそれに、どんな企みが隠されているか分かったモノではない……どうした『生者』、そんなに顔を蒼くして」

 うんまあ、普通の反応って感じだな。
 文化の革新には、そういった批判は当然ついてくるものだ。

 だけども、それを知らないとはいえ本人の前で言われるのはな。
 頑張って開発した物を、こうも堂々と否定されると……さすがにショックだ。

「……実は、その『プログレス』を大量にお持ちしたのですが……どうやら、不要だったようですね」

「! ま、待ってくれ!」

「いえ、大丈夫ですよ。私も制作に関わっていますので、きっと英雄様もお考えになった通りの企みが隠されているでしょう」

「ああもう、話を聞け!」

 大声を出され、死んでしまうのだが……とりあえず瞬時に死に戻り、話を聞くことに。
 こうなることを予期して誘導した感も否めないし、ちゃんと対応するとも。

「悪かった……他の誰でもない、君が携わっているのであれば、少なくとも悪用するためのモノでは無いのだろう」

「…………」

「思えば、ここでの活動で私も変わっていたということか。自分がどれだけ善意を信じさせようと、逆に信じることができなければダメではないか……改めて、謝罪しよう」

「い、いえ、そこまでされなくとも」

 うん、今度は罪悪感が湧くから。
 そんなこんなで、【革命英雄】にもさっそく『プログレス』を使ったもらおうか。


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