虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布中篇 その14


「──さて、貴様はなぜここに来た。転移を防ぐ機構を備えている……といった無粋なものではなく、ここを訪れた理由だ」

「ご挨拶ですよ。ご存じの通り、私は現在一度出会った者たちに再び顔を見せています。ここで【情報王】さんだけを仲間外れにする理由もございませんので」

「余計なことを。まあいい、今はこちらも忙しいのだ。何もしないのであれば、今回は見逃そう」

「そうですか? では、そうさせてもらいましょうか」

 すでにあの管制室に向かっても、どうせ無駄になるだろう。
 今回は大人しく撤退して、この領域のどこかに居る子供おんじんを見つけないと。

「……ああ待て、最後に一つ。製作者の口から確認が取りたい、本当に『超越者』は絶対にプログレスが使えないのだな?」

「名を騙るのではなく、真に権能を持ち合わせた『超越者』であれば。たとえ『騎士王』などの奇跡の産物であれど、その力は決して振るわれないとお約束しましょう」

「そうか。ご苦労だったな」

「ええ、ではこれで……」

 さてさて、今の発言で【情報王】は俺から情報を買ったわけだ。
 ……相応の対価を頂いて然るべき、そうは思わんか?

  ◆   □   ◆   □   ◆

「お、おじさん……これ、本当にいいのか」

「ええ、あのときのお礼ですよ」

「けど、ちゃんと金を貰って……」

「それとこれとは別ですよ。私はこれの製作者と伝手がありましてね、特別に君の家族の分を頂いています。よければ、ぜひとも使ってみてください」

 少年に特別な力はない。
 だけど彼によって、俺はさまざまなことを知ることができたからな。

 この場所のことだったり、【革命英雄】のことだったり……誰に聞いても知ることができたかもしれないが、俺がそれを知れたのは誰でもない少年のお陰であった。

 なので彼とその家族の人数分、使用者制限付きで『プログレス』を用意してある。
 ……制限を設けてあるのは、売ったり遠慮したりしないようにだな。

「使い方は……こちらの絵本に書いてありますので、ご家族といっしょに読んでから使ってみてください。魔石は残念ながらご用意できませんでしたが、能力自体は確実に発現するでしょう」

「……お、おじさん、何者だよ」

「さて、どうでしょう? ただのお金持ちなのか、あるいはもっと凄い人なのか。ただ、そこまで偉くはありませんので、敬語とかは必要ありませんよ」

「うん、おじさんって話しやすいっていうか偉く感じないから大丈夫」

 ……顔では笑い、心では泣いた。
 いやまあ、別にいいんだけどさ、やっぱりこう──出世できないと言われているような感じがして堪らなかったよ。


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