虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス配布中篇 その10
「それで、そのプログレス……だったか? それを配りに来たのか? わざわざ来なくても、ここには出回ってるのに」
「端的に申してしまえば、これからも末永くお願いしますというご挨拶ですね。知人価格ということで、お安く売りますよ」
「要らねぇ……とは言えねぇんだよな。実際使えるのは、喰らってる俺がここの奴らの中で一番知ってる。何でもかんでも、頭ごなしに断るわけにはいかねぇか」
「そうしていただけると助かります。利益を得られることは、私としては大変喜ばしいことですので」
傍から見れば戦場を文字通り使う死の商人のようだが、『プログレス』は戦闘以外にもしっかりと使い道がある。
生産系の『プログレス』は存在するし、上手く使えばこれまでの技術を飛躍的に確信させることだって可能だ。
問題はその技術も、改善をしなければその能力を持つ個人が担う点だが。
これで奴隷扱いさせられたとか、そういう事件があったら……さすがに手を貸すか。
「──ヴェキン、金はあったか?」
「ああ、うちのボスがたんまり稼いだものがあるぞ。けど、『生者』はたしか宝物庫の中身の方が良かったんじゃないか?」
「そうですね。正直なところ、商人をしている身ではありますが、あまり金銭への興味は薄い方でして。貴重なアイテムなどがございましたら、そちらと一定数の『プログレス』の交換という形でいかがでしょう」
「前と同じく、掃除をしてくれるならこちらも弾んでおこう」
そんな会話をしたのち、俺はヴェキンにつれられて宝物庫へ向かう。
そこでさまざまなアイテムを調べ……アジトを去るのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
というわけで、『拳王』とはアイテムの交換という形で『プログレス』を譲渡した。
……暗躍街で売っているとは言ったが、どうやらボッタくられているらしい。
「それでも金がある奴はたんまりと得ることができる。そして、その大半がここに奪われることになるわけか……」
目の前には巨大なカジノ──そう、ここを牛耳る『賭博』が集めているらしい。
景品にすることもできるし、自分の戦力も強化できる……一石二鳥である。
「というか、持ってるならわざわざ行かなくてもいい気がするな。いやまあ、情報を渡すぐらいならできるけど……ここでそれなんだから、【情報王】なんて何をお土産にすればいいのやら」
《あくまでも、旦那様が訪問するという形式が大切なのです。彼らが持つ『プログレス』の有無は関係ございません》
「ならいいけど……よし、行きますか」
入り口で裏VIPカードなる代物を見せれば、入ることが可能だ。
一度来たこともあるので、止められることなく俺はカジノの扉をくぐった。
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