虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス配布中篇 その09
コロシアムで視認されたため、使いが出された……俺はソイツに従ってついていく。
前回同様にアジトへ移動させられ、そこで待つ『拳王』。
「よう、久しぶりだな『生者』」
「ええ、お久しぶりです。この度は、わざわざお招きいただきまして、誠にありがとうございます」
「そういう細かいことは気にすんな。それより、どうしてここから来たんだ?」
まあ、訊かれるのは当然である。
少々脳筋な『拳王』ですら、この暗躍街におけるパワーバランスを理解していた。
多くの『超越者』と縁を持ち、殺しても死なないためそのコネクションは半永久的に繋げられる……しかも拘束も不可能なので、我ながらずいぶんと厄介である。
というわけで、俺が先に来た場所には誰よりも早くその恩恵にあやかれるのだ。
それをここの強者たちは理解しており、パワーバランス的な面を気にしていた。
「単純に思い出をなぞっているからですね。この後はご想像通り、『賭博』さんの下を訪れさせてもらいます」
「ふーん、まあそれでお前がいいならいいんだけどな。さて……たしか、最近はアレを配りに巡ってるんだっけな? えっと……なんだっけか?」
「ボス、プログレスですよ」
「おおっ、そうだったそうだった。アレはここでも有名だぞ、『超越者』が使えないってところが特に。お陰でそれを使って挑んでくる奴が増えたな……刺激が増えて助かるが、あれってなんで俺は使えないんだ?」
途中で割り込んできたのは、『拳王』の右腕で【先兵】の職業持ちなヴェキン。
少々お頭が筋肉になっている『拳王』の代わりに、物事を考える担当らしい。
「ヴェキンさんならばお分かりでしょうが、彼らがこれ以上の力を得ればこの街以外でも多くの揉め事が生まれます。権能とは、それほどまでに他を超越した力をもたらしますので。その対抗策が──『プログレス』です」
「お前自身も使えないのだが、それでも良いのか? 死んで蘇る、権能がそれだけならば他にも力が欲しくなるだろう」
「……まあ、そういう仕組みなんですから仕方ありません。開発者曰く、一つでも特例を作れば穴を突かれる。それができるからこその『超越者』だそうですので」
「…………たしかに。普段のボスを見ても、ありえないことを何でもやるからな。そういうことか、なら仕方ないな」
万能の『騎士王』、機械特化の『機械皇』など……油断ならない者は多い。
しかし俺も含め使えない状態にして、神にロックを施してもらえば完璧だ。
俺だって『プログレス』は起動できないのだ……あくまで、管理者権限を使って他者のモノを拝借しているだけである。
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