虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布中篇 その05



 さて、千苦の『プログレス』の確認は終えたわけだが……コミの方は、本人がそれを認識していない。

 とはいえ、『プログレス』にはちゃんとそれを確認する機能が搭載されている。
 今回は、それを彼女に知ってもらうことにしよう。

「まずは、確認をしてみようか」

「うむ」

「『プログレス』を装備した状態で、念じるか特定の仕草を取る、または[メニュー]ということで画面が出現する設定だ。まずは、言うことで画面を出してみようか」

「やってみるのじゃ……[メニュー]!」

 少々気合の入った声で、コミは俺の言った通りに叫ぶ。
 まあ、俺の視界には何も映らないが……彼女自身はとても驚いた表情を浮かべていた。

「これが、ツクルや休人たちが見ている世界なのか……」

「まあ、そうだな。けど、再現できない部分も多かったから、そこは一部別の機能なんかが入れてある。今は省くぞ、[ステータス]が載っていると思うから、今度は何も言わずに念じて開いてみてくれ」

「…………むっ、できたのじゃ。これが使えるだけでも、世の人々が喜ぶことは間違いなしじゃと思うぞ」

「ギルドに所属すれば、見てもらえるようになるらしいけどな。あれは簡易なモノだし、こっちは完全版だけど。それで、その画面の中に『プログレス』の名前もいっしょに載っていると思う。さぁ、確認してくれ」

 ほとんど休人の[メニュー]画面と同じ、しかも彼らの場合は同期までしている。
 なので、とても分かりやすい画面だ……すぐにコミもその名前を見つけたようだ。

「──『ブルームセンス』?」

「なるほど、それだったか。それは、変化や変身といったスキルを持つ種族によく見受けられる『プログレス』だな。潜在能力を開花し、変化や変身の補助を行うらしい」

「うむ……どうして私にその力が?」

「それをコミが望んだから、だと思う。自分に眠った力を使いたい、そう心のどこかでは願っていたんだろう」

 コミは鬼と狐の物ノ怪のハーフであり、先祖に居た普人の姿で生まれた少女である。
 そのため、物ノ怪としての姿が中途半端でケモミミ鬼っ娘という姿になっていた。

 物ノ怪物は基本、戦闘形態と通常形態の二種類の姿を持つ。
 分かりやすいたとえだと、『陰陽師』の式神たちは全員通常形態だった。

 戦闘形態は姿を物ノ怪の本質に近づけることで、その戦闘力を増大させる。
 だが、コミの場合は……通常形態しか生まれつき持っていなかった。

「その能力は、ちゃんと制御可能だ。今からその練習をしようか」

「うむ、よろしく頼むのじゃ」

 そんなわけで、『ブルームセンス』を使いこなすお手伝いが始まる。


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