虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

陰陽師問題 その16



「予め、『辻斬』さんには大量の戦闘データの提供をしております。ありとあらゆる、私が経験した情報を」

「……『生者』よ、アレからどのような者たちを相手にしておるのじゃ?」

「『超越者』が多数、【王】を冠する職業の持ち主も多数。森獣や聖獣、それに異世界の魔物とも戦っていますね。あとは……無限に増殖するユニークモンスターでしょうか」

「なんともまあ……合縁奇縁に恵まれた生き方をしておるようじゃな」

 中にはショウが経験した、王道的なバトルの数々も登録されている。
 ……息子が戦った相手だからと、父親も張り切ってしまいました。

 そんなこんなで膨大な戦闘データが蓄積され、それら導刀[最敵]に宿っていた。
 そこに『辻斬』自身の情報を重ね、強くなるために必要なことをやったきたつもりだ。

「武技を使わず、己の精気力のみで戦うのが武人と聞きました。なので『辻斬』さんもまた、その技術を磨いております」

「ふむ、道理で武技特有の発光が起こらぬわけじゃな」

「本来、“肉体支配”のデメリットとして、武技の使用不可状態が付くのですが……もともと使わないのであれば、それは枷にはなりません。むしろ、余計な力が抜けることで、より上手く刀を扱うことができます」

 さて、『陰陽師』と『辻斬』の方を見てみると、『辻斬』がだいぶ押していた。
 覚えたことすべてを“肉体支配”により、一時的にとはいえ完全に扱える。

 代償のことは気にせず、ここで終わらせてほしいと事前に伝えておいた。
 なので『辻斬』も出し惜しみせず、持ちうるすべてを費やして攻めている。

 もう間もなく、『陰陽師』の隠しダネも尽きることだ。
 ……最後の切り札を切らない以上、今回の戦いは『辻斬』の勝利で終わる。

「ところでじゃが、『辻斬』はどのようにして復讐を完遂とするのじゃ?」

「ああ、それは観ていれば分かると思いますよ。そろそろお菓子の方も、フィナーレと行きましょう」

「お、おおっ! そ、それはいったい……」

「フォンデュタワーという、遊んで食べられるお菓子ですね。ここにあるものをこの中に浸すと、味が変わるのです。チョコ、チーズと二種類用意してありますので、ぜひともお試しください」

 式神娘たちがいっせいに飛びつくのとほぼ同時、『辻斬』が動いた。
 現在、『辻斬』は体に刺した[支揮咬]の代わりに、打ち上げた妖刀を使っている。

 そしてその妖刀は、『辻斬』が二つ目に打ち上げた妖刀。
 初代を継ぎ、その想いをも承ったその妖刀の銘は──

「──[童哭]!」

 鍛冶師は誓った、己を賭して生みだした子の仇を討つと。
 そして、そのためならばもう二度と泣くまいと捧げたのだ。

 わらべなみだを喰らい、生みだされた妖刀。
 それは『辻斬』の生涯の大半で生みだされた想いを糧に育ち、真の意味で対『陰陽師』に特化した妖刀と化していた。

 そして、その刃は『陰陽師』へ届く。
 回避も不可能、必殺の刃は彼女の心臓を刺し貫いた。


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