虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
陰陽師問題 その15
「──かつて、一振りの妖刀がありました」
「なんじゃ、急に物語を利かせるような口調で言いおって」
「銘も持たぬその刀は、一人の鍛冶師が初めて作り上げた品でした。特殊な力などはまだ宿っていない、いわば赤子のような状態でした。鍛冶師はそれを飾り、初心を忘れぬようにと大切にしておりました」
「……なんだか、もうこの先の展開を分かってしまうのう」
とある実話を口にしていると、遠くで再び『辻斬』が優勢になっていた。
……いや、正確には『陰陽師』の注意が逸れたと言った方がいいか。
「あるとき、そんな鍛冶師の下へ一人の少女が訪れました。もともとの目的は鍛冶師の師匠が打ち上げた妖刀が目的だったのですが、ふと見上げた場所に妖刀を見つけました」
『…………』
「ちょうど家を出ていた鍛冶師。鍛冶師の師匠も求められた妖刀を探しに、一時期この場から離れていました。そして、鍛冶師が家に戻ったその時、目にしたものは──」
「うがぁあああああああああああ!」
会話を遮るように、裂帛の叫びが上がる。
そちらを見てみれば、『辻斬』が吶喊して『陰陽師』の十二単を斬り裂いていた。
「無残に破壊された妖刀でした。ちなみに、少女は中身の妖力を取り出そうとして失敗してしまったそうです」
「『生者』はん、なんで知っとるん?」
「……その出来事を知っている人族は、念入りに証拠を消した少女のみ。しかし、目撃者ではなく証拠品はございました。優れた鍛冶師は、武具に宿る想念を読み取ります。そして、悲しみが奇跡を生んだのです」
「妾たちも、手伝った方が良い気がしてきたのじゃ。無論、向こうを」
本来はその技量には至っていなかったそうだが、付喪神的なナニカがあったのだろう。
壊れた刀身で、伝えたのだ──『陰陽師』がいったい何をしたのかを。
まあ、そんなわけで鍛冶師──『辻斬』は復讐を誓った。
文字通り、初めて生んだ我が子(刀)の無念を晴らすために。
「今こそ無念を晴らすぞ──『陰陽師』!」
十二単に仕込んだ式神が結界を展開し、再び距離を取る二人。
それを追いかける形となった『辻斬』なのだが……深呼吸を行う。
握りしめた妖刀は、『辻斬』の想いに応えるように胎動している。
操刀[支揮咬]の力は、式神の操作妨害だけではない──己の体に刺し、効果を示す。
「──“肉体支配”!」
効果はシンプル、自分のイメージ通りに動くことができる。
多少の痛みも発生するが、本人も承知の上で発動させた。
何より、俺との戦いがここで活きる……自分以上の自分の動きを、何千何万と見せてきたのだから。
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