虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
陰陽師問題 その08
導刀[最敵]。
いきなりだが、一言でこの刀の能力を纏めてしまえば──敵対者への最適対応だ。
相手がもっとも嫌がる動きを、使用者の身体構造度外視で取る最悪の刀。
俺以外で使用できるのは、肉体を持たない存在が軟体生物ぐらいだろう。
まあ、俺も俺で一挙動ごとに体の繊維が内側から引き裂かれて死んでいるわけだが。
そこは『生者』の権能で、即座にその場で死に戻ることで死合いを再開していた。
「この動き、先ほどもしましたよ」
「なんと、もう見抜いたか」
多少のフェイクを交え、『辻斬』は妖刀を振るってくる。
暗殺系統のスキルが発動しているからか、たしかにそれは人の認識しづらい攻撃だ。
しかし、[最敵]には人の知覚能力を超えた解析システムが搭載されている。
実は『プログレス』の能力が組み込まれており、それがこの刀の根幹となっていた。
その能力によって攻撃すべてを人とは異なる観点で調べ上げ、相殺する。
時間が経てばそれはカウンターになり、敵対者を苦しめていくのだ。
ちなみに結界に動きは記録されるので、本人のデータと対その人のデータを同時に得られる……まさに一石二鳥である。
「それこそが私の刀の力、とでも言いましょうか。先ほども申した通り、この刀は試練を課します。そして、私を倒すということは己に打ち勝つということです」
「己に……」
「一皮剥けるでも、一段上に昇るでも構いませんがね。予め申しますと、私は死にませんので、『辻斬』さんの敗北は決まっているのです。大切なのは、その敗北をどう生かすかどうかなんですよ」
「むっ……まだ分からぬではないか」
本来なら、死んで死んで死にまくるので、相手も理解できるのだが……今回は[最敵]使用中だから、なかなか分かりやすい死に方が無いからな。
傍から見れば、いい勝負だろう。
初めは【刀王】の動きで時間を稼ぎ、ある程度時間が経てば『辻斬』自身の動きで追い詰めていく。
「だんだんと、分かっていきますよ。自分で言うのもなんですが、私の強みは最後まで生き残ることです。生きている、死なないというわけではなく、ただそこに在り続ける……粘り強いですよ、私は──今ですね」
「くっ……」
何をしたかといえば、絶対に回避できないタイミングで刀を振るっただけ。
相手がどれだけ神速の太刀を振るおうと、俺の置いたタイミングは対処できない。
刀がそうして当たる直前──俺は体を強引に動くように命令を下す。
その結果、軌道は逸れて『辻斬』が回避行動を行うだけの余裕が生まれた。
「安心してください、まだ終わりません」
「……なぜ、決めなかった」
「だから、申したではありませんか。私は修業を課すだけですよ、『陰陽師』さんへ届く刃を磨く修業をね」
まだまだ死んでもらっては困る。
少々歯軋りをしているようだが、それが必要なことは理解したのだろう。
そのまま刀を構えると、『辻斬』は再び俺に駆けてくるのだった。
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