虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その15



「さて、今度はここだな」

 大陸を渡り、着た場所は倭島。
 座標は日本で言うところの山陰山陽、目的地は刀が突き刺さったお城──都牟刈城。

「簡単なトップの呼び方ー!」

 そんなことを言いながら、[ストレージ]から刀を一本取りだす。
 銘は[砥丸]、世にも奇妙な砥石として使うことのできる刀である。

 これを道端に刺して待つこと数分、刀の目の間に空間の裂け目が出現した。
 そこから出てきたのは、俺の待っていた人物──この領地のトップ【刀王】である。

「ふむ……これはなかなか」

「【刀王】様、お久しぶりです」

「なかなかに歪な物をと思えば、なるほど。『生者』、其方の持ち込んだ品であったか」

「刀としてはたしかに、使い物にならないでしょう。しかし、刀を支える物として、至上の活躍をすると自負しておりましたよ」

 あくまで刀を打ったのは、俺ではなく謎の鍛冶師という設定にしてあるのだ。
 相手が知っているとかそういうことではなく、口上ではそう言わねばならない。

「そうか……それで、此度はこれを見せるためだけに来たのではないのだろう? 詳細は城で聞く、この裂け目から向かうぞ」

「ええ、ではお願いします」

 普通は違和感だらけの移動手段だが、今さらな気がするので何も言わないでおく。
 人里から少し離れた場所に居たので、目撃者も居ない……居ても気にしないだろうな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──ぷろぐれす、とやらはつまり求める姿になるのだな?」

「はい。予め申しておきますと、刀そのものなのか、刀を使う補助となるのかは【刀王】様次第です。今、求めているもっとも適した形として、『プログレス』は姿を成します」

「ふむ……そして、これは生きる物すべてに使うことができるのか」

 城の内部は刀で溢れている。
 そして、中には俺が前に渡した[屍装]のような生きている刀も……。

「明確な意思があり、それが使われるだけの存在でなければ。たとえで言いますと、使役状態の魔物などは不可能ですね。装備、も似たような感じでしょうか。『プログレス』の装備者そのものを装備はできません」

「……移植をするのならば、装備では無いのだろう? それでも不可能なのか」

「『プログレス』はすべての者に等しく力をもたらし、同時に権利を与えます。なのに、使われるだけというのはあんまりですので。残念ながら、最低限それ自体が戦えるような存在でなければ難しいですね」

「…………そうか」

 まあ、おそらくはやってのけるだろう。
 しかし俺は知らないはずなので、知っているような素振りをしてはいけない。

 世界には、自分の意志を伝える武具だって存在しているのだ。
 それを【刀王】が望むのであれば、必ずや『プログレス』は応えるであろう。


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