虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その13



 俺と未完機体と呼ばれた機体が話し始めてしばらく、『機械皇』が戻ってくる。

「遅れてすまな……い……」

「いえいえ、こちらも少しばかり時間を掛けてしまっていましたので」

 前回訪れたときに使っていた、偽装型フェイクロイドと呼ばれる機体がやって来た。
 それを動かすのは『機械皇』で、言葉が詰まったのは視界に入った光景が原因だろう。

「あ、あの……皇様!」

「…………」

「わたし……ずっと、ずっと言いたいことがありました!」

 彼女が伝えたいことは聞いており、それが害悪にならないことは確認済みである。
 ……壊されると『プログレス』の情報も消えてしまうので、守らないといけないのだ。

 未完機体と称された彼女は、『機械皇』へその想いを伝える。

「ありがとうございました!」

「……ありがとう、だと?」

「はい! 皇様のお陰で、わたしは生まれることができました! たとえ、皇様が望まずとも……わたしは、生まれたかった!」

「…………」

 今回、だいぶ『機械皇』は無口だ。
 内心で溜まる想いの量が、現実は反映されていない……詳細な事情などは訊けていないので、真の意味は二人にしか分からない。

「皇様、わたしは皇様といっしょに居たいです。命令すべてに従う道具としてではなく、要請すべてを達成できる協力者として!」

「……そうか」

「で、ですから……その……な、名前をくだしゃい!」

「……『生者』の差し金か?」

 隠すことでもないし、絶対バレるなと最初から分かっていたのでここは頷く。
 いきなり名前をくれ、そんなことを言えるような娘でもなさそうだったしな。

「いい考えでしょう? 『機械皇』さん、どうかお名前を」

「…………ダメ、でしょうか?」

「うぐっ……せ、『生者』!」

「はいはい、何でしょうか?」

 思いのほか、焦っている『機械皇』。
 まあ、機械だけを相手にしているっぽいこの方に、無茶を求めすぎたのか?

「私でも、よろしいでしょうか?」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「分かりました……『ロロ』、というのはどうでしょうか?」

「ロロ……ですか?」

 彼女も、そして『機械皇』もその由来はまだ分からないようだ。

「未完機体、貴女に与えられたそのコードは『機械皇』さんにとっての始まりです。それは私たちの世界において、プロローグという名を与えられています」

「プロローグ……」

「序幕であり序章であり、始まりであり発端である。『機械皇』さん、よろしいのであればぜひとも」

「…………ろ、ロロ」

 まあ、この後彼女がどのような反応をしたのかは言うまでもないだろう。


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