虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その12



「……ッ!」

「あっ、起きましたね」

「ここは……工房か」

 俺たちが居る場所は、『機械皇』が機械を弄るために使う部屋。
 さまざまな道具が揃えられているため、ここを使わせてもらった。

「しかし、いったいどうなされたので? 突然のことでしたので、少々驚きました」

「すまないな、少々トラブルが……」

「そうでしたか」

「……『生者』よ、ワタシに何をした?」

 いきなり問いかけてくるということは、その理由に俺が関わっているのだろうか?
 まあ、何をしたと言えば何もしていないのだが……やったことをそのまま言おう。

「──未完機体、ですか」

「…………」

「現在、『機械皇』さんがご利用している機体のコードですね。何やら特別な思い入れがあるのかもしれませんが、今回はこちらの機体に『プログレス』を組み込ませていただきました」

「っ……!」

 そう、『機械皇』には何もしていない。
 現在使われている女性型の機体、前回とは違うなぁとは思っていたのだが……どうやらだいぶ根深い事情がありそうだった。

 なので構造を:DIY:で完璧に把握したうえで、『プログレス』を組み込んだのだ。
 何を目的に作ったのかは不明だが……ずいぶんと面白い機構が組み込まれていたぞ。

「今はまだ、目覚めていないでしょうが……たしかに移植は成功しました。やはり、機械には魂が宿る」

「……それで、どうなった」

「移植が成功した時点で、能力が発現することは確定しています。少し待てば、この機体が望む力に目覚めるでしょう」

「なるほど。では、待たせてもらおう。機体は変えるべきか……『生者』と前回相対した際の偽装型フェイクロイドにしておこう」

 再び目を閉じ、おそらく本体からまた別の機体に移ったであろう『機械皇』。
 その場に残るのは俺、そして未完機体とされた機体のみ。

《旦那様、監視偽装が完了しました》

「そうですか、ご苦労様。さて、そろそろ平気ですよ──起きてください」

 この場には俺以外、誰も居ない。
 少なくとも、『機械皇』はそう思って一時的にこの場への監視を緩めた……ゆえに、このときだけが話すチャンスだ。

 先ほどまで開き、ついさっき閉じられた瞼が再び開かれる。
 これまでの視線とは違う、無垢な瞳が辺りの様子を窺っていた。

「……あの、あなたは?」

「私は『生者』。『機械皇』さんのお手伝いとして、貴女がたに命を与えました。理由は特にありません、ただ望むままに動いてもらいたくて。何かしたいことはありますか?」

「…………あります!」

「では、そのお手伝いをしましょう。教えてください、その願いを」

 目覚めたばかりの彼女が、願うこと。
 それは一瞬で『プログレス』を起動させ、意思を手に入れるまでに凄まじいモノ。

 解析できたなら、間違いなく俺のためになる……ならば、共に居て知ろうではないか。


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