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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その11



「──というわけで、『プログレス』でございます。すでに『機械皇』さんであれば、把握しておいでだとは思いますが」

「……唐突に訪れたかと思えば、いきなりだな。まあいい、たしかに把握している」

「前回、お伝えした通りお土産ですよ。機械であろうとも、そこに命というたしかな概念さえあれば使用できる新たな力の概念です」

 次に訪れたのは『機械皇』の場所だ。
 情報収集を行っている『機械皇』ならば、わざわざ詳細を説明せずとも全部理解していると思っていた。

「『超越者』以外のすべての存在が、等しく使える『プログレス』。これがあれば、できることもあるのではないですか?」

「……なぜ私に、そのことを?」

「まあ、投資ですかね。私も私で、とある事情で真の機械を目指していまして。そのために、『機械皇』さんの御力をお借りしたい」

「…………」

 俺はまだ、『機械皇』の目的を完全に把握しているわけではない。
 だが、それでも協力できないわけじゃないし、むしろその方が都合がいいこともある。

「命の定義とは何でしょうか?」

「……尽きるまで使うめいを持つモノ。それが私の考える命だ」

「なるほど。私にとっての命とは……自分を動かす源。人には人の命が、魔物には魔物の命が、そして……機械には機械の命が存在すると思っています」

 そもそも生きている中で、わざわざそんな細かいことを考えることなど無い。
 生きているんだから、命がある……これぐらい雑に考えてもいいだろう。

「というわけで、さっそく始めましょう」

「……何をだ?」

「決まっています。『プログレス』を機械へ移植するのです……ある意味、命とは何なのかを知る機会ですね」

 というわけで、機械に『プログレス』を埋め込もうと思ったのだが……『機械皇』は不動を貫いている。

 てっきり、別の機体に意識を移したのかと思ったのだが……そうではないようだ。
 目の前で手を振っても反応しないし、このままだと事が進まないな。

「『SEBAS』、頼む」

《畏まりました──『プログレス:ワンダーハンド』をインストールします》

「セット──起動開始」

 肩の辺りから巨大かつ半透明な腕が出現。
 そのまま『機械皇』の意識が入った機体を持ち上げ、俺の移動に合わせて運搬を行ってくれる。

「いや、全然起きてくれないな」

《旦那様、いかがなされますか? どうやら精神的な問題が生じ、ネットワークが断線しているようですが》

「『超越者』の使用制限は、いったいどこを基準にしているのか。それを試すのも、また一興だな……起きてくれた方が、俺としては助かるんだけど」

 どうせ機械が『プログレス』を発現させたら、解析されるのは分かり切ったこと。
 どういう原理なのか、せっかくなので起きるまで試させてもらおう。


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