虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス配布前篇 その08
「──『アルケミア・タブレット』。どうやら、起動には成功したようだ」
翌日、『錬金王』の口から実験の成功が語られた。
彼女の掌には常に変化し、不思議な色で光るタブレットが浮かんでいる。
「これは……初の『プログレス』ですね。これまでに、『錬金王』さんが目覚めさせたこの『プログレス』を起動させた者は、誰一人としていません」
「ふむ……これは、私の錬金術に対する思いが認められたと考えるべきだな。それで、性能について何か分かることはあるか? 私のこれは、説明が足りない」
「……私では分かりませんよ?」
「『生者』、私たちの間に隠し事は無駄だろう。私は『生者』に恩義を感じている。これからも、頼まれれば大抵の物は作ろう……その際に情報は、間違いなく力に関わるぞ」
隠せるとは思っていなかったので、両手を挙げて降参のポーズを取っておく。
そして、『SEBAS』を通じて解析してもらった情報を開示してもらった。
「『アルケミア・タブレット』は、これまでの『錬金王』さんの軌跡そのものです。その端末の中には、成功も失敗も実験も書留もすべて、情報として載っています。そして、これから行う錬金に影響を及ぼします」
「……つまり、意図的に失敗作を生みだすことも可能だと?」
「その通りです。この点に限り、『錬金王』の権能を超えていますね」
「ふむ……補正は無いが、代わりに自在な錬金への可能性が生まれたわけだ」
過去の錬金記録も引き出し、今の結果として反映させられるチート級『プログレス』。
その参照データが『錬金王』としてのモノも含まれるのだから、その性能は異常だ。
休人が出しても、ほぼハズレと化す。
錬金術への補正は皆無だし、積み重ねた実績が無ければ効果もゴミとなるわけだし。
「さすがです、師匠!」
「そうだろう、そうだろう……これで、ユリルの心配も無くなったか?」
「えっ、それって……」
「師匠だからな、それくらい分かる。安心しろ、これからは弟子以上に優秀な錬金術師だと証明してやろう!」
そう言って、さっそく設備のある部屋に転移する『錬金王』。
俺とユリルは昨日と同じだなぁと、顔を見合わせて笑う。
「もうとっくに、師匠は世界でもっとも凄い錬金術師なんですけどね」
「理屈じゃありませんよ。自分に憧れを抱いてくれている人に、応えたいと思う気持ちはね。ユリルさんも弟子を取れば、きっとその気持ちが分かりますよ。それより、私たちも行きましょう」
「はい、そうですね。きっと、師匠が待ち侘びていますから」
俺たちも『錬金王』の後を追うように、転移陣に乗って移動するのだった。
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