虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その05



「もっと腰に力を入れろ」

「はい!」

 せっかくだし、【仙王】の『プログレス』が目覚めるまで滞在することになった。
 その間は『闘仙』さんに頼み、再び仙丹を合わせた戦闘技術を学ばせてもらうことに。

 まあ、前回アリバイ作りに来た時の情報を更新するだけなんだが、『闘仙』さんもあれから技術をアップデートさせているようで、それを俺の身を以って実演してくれている。

「しかし、『生者』よ……これほどの力をバラまき、お前は大丈夫なのか?」

「……ええ、いろいろと問題はあるでしょうが、それ以上に利点がありました。それに、星渡りの民はいつでも元の世界に帰ることができますので。そして、『生者』の権能は生き残ることに特化しています」

「なるほど、止められないわけか……これはうかうかしてられないな」

「『闘仙』さんであれば、問題ないと思いますがね。まさか、物理を無効化したり吸収する相手への対策も考えていたとは」

 仙丹で多少補正があったものの、もともと『闘仙』さんの戦い方は物理特化。
 あくまで仙丹は身体強化や属性付与のみに使われており、本人の体術がベースだった。

 そこは変わっていない。
 だが、『闘仙』さんは仙丹の使い方を少しだけだが変えることで、自身の攻撃の性質を物理ではないとシステムに誤認させた。

「いったいどうやっているのですか?」

「……勘、だな。やろうと思って試してみたら、思いのほか上手くいった」

「そ、そうですか……」

 天才はいつの世も、凡人の理解できない領域に存在しているな。
 理屈はそのうち『SEBAS』が言語化してくれるので、それを楽しみに待とう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「これがアタシのプログレスだ!」

 手袋に付いた宝石が光り輝くと、その能力が発動した。
 小さな穴が二つ、ポッカリと宙に開く……それだけである。

「……あれ、これだけ?」

「『ゲートコネクター』ですね。効果は空間に穴を開け、そこを繋げる。成長させることで、穴の数や広さ、射程を増やせます。ちなみに現状では、人が通ることはできません」

「うん、この大きさだしね」

 小さな穴の詳細を語るのであれば、だいたい五百円玉サイズである……小さすぎる。
 こういう穴といえば、武具の射出などが定番だが……これでは穴を通らないな。

「今は成長させることが大切ですね。どのような成長を遂げるかは【仙王】様次第、望まれるがままに育ててみてください」

 戦闘に使うのなら、俺が想定したような成長しかしないだろう。
 だが、彼女ならば……異なる使い道を選ぶと、俺は信じているからな。


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