虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その03



 一つひとつ、俺自身が顧客の下へ出向いていくつもりである。
 しかし、さすがに最初に売っていくのはお偉い様がた……揉めて殺されるのは御免だ。

「──というわけで、最初はここですね」

「お待ちしておりました!」

「リーシ―さん……わざわざのお出迎え、痛み入ります」

「いえ、これは私がやりたくてやっていることです!」

 ……うん、だからアレを! と言外に告げてきているのがよく分かる。
 毎度お馴染み、アイプスル産の人参──ウサ耳少女には、付き物の品だった。

 彼女はそれを、財宝を貰うかのように恭しく手で受け止めると、しばらくジッと見つめたのち……かぶり付く。

「~~~~~ッ!」

「喜んでいただけて何よりです。では、そろそろ【仙王】様の下へ向かいましょう」

「ハッ! そ、そうでした……さっそく、ご案内いたします」

 すでに通い慣れた道ではあるが、こんなやり取りがあるので案内してもらっている。
 通る際のチェックなども、権力者とのコネによってあっさりとスルーだ。

「……少し、変わりましたか?」

「そうですね、最近は少しずつ星渡りの民の情報や作られた品々が入ってくるようになりましたし、ツクル様が販売していらっしゃる品々の影響を受けていましたので。変化していると思いますよ?」

「……ええ、変わっていると思います」

 もともと中央街──外に興味を持つ仙人が住むここは、中華に似た文化があった。
 ただ、あくまで似ているだけで、料理や服装など違う部分はたくさんあったのだが。

 堂々と『チャイナ服』と書かれている服が売られていたり、『餃子』とか『肉饅』と書かれた品が売られている。

 ……中国人ではなく、日本人が中華文化を広めたのがよく分かる光景だ。

「仙道街の方にも、この変化の波が?」

「そうですね……こちらのように絢爛ではありませんが、最近では稲作や畑仕事を始める方が増えましたね」

「……なんだか、同郷の者がすみません」

「いえいえ、より実りやすい育て方など、有意義な情報もありましたので。最近では、肥料も上手くできるようになったんですよ?」

 仙道街の方は街の方で、なんだか田舎感が向上しているな。
 先ほどそちらの住民っぽい人を見たが、恰好も『和』の雰囲気を漂わせていたし。

「【仙王】様も、この変化をとても喜んでおられました」

「そうなのですか?」

「……ええ。最近は格好もそちらに拘ってしまい、よく怒られていますね」

「…………」

 いったい、どんな格好なんだろうか?
 リーシーさんには悪いが、なんだか気になりつつあるぞ。


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