虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その01



「……あんまり外を巡らなくなったな」

 ふと、そんなことを思う。
 たまに遠出をすることもあるが、それもそれでなんだか『超越者』に関する場所ばかりで……普通の冒険が皆無だな。

「せっかくの『プログレス』も、これだと出番がなさそうだし。そもそも生産職って、冒険に出ないのか」

《『騎士王』によって強制されることが多い結果、『冒天』に選ばれるほどの縁は結んでおいでですが……》

「まあ、俺以上に息子と娘がこの世界を巡り巡っているからいいんだけどさ。家族で一度冒険を味わったら、もういいかなって感じもしてきたからな」

 千層の迷宮を冒険する、いかにもなことをやったため……意欲が失われたのだ。
 その後は『千変』と『万化』による喧嘩の仲裁もしたし、未開の地は行き飽きた。

「しばらくは籠もって活動するのが良い気がするんだ。贋作作りがそれっぽい気もするけど、他にもな……アイプスル以外にも、拠点作りでもしてみようか」

《旦那様が要求すれば、『騎士王』の領地や【仙王】の郷など、即座に認めてくれるような場所は多いですね》

「【魔王】もな。そうだ、冒険はともかく配達をしないと……『プログレス』の説明とかもしないといけないし」

《そうですね。休人用とは違う、補助機能があることもお知らせしなければなりません》

 実はこの世界の人々が使う『プログレス』には、ある機能が組み込んである。
 休人の方に組み込んでいないのは、単純に不要だからだ。

 それは部分的にではあるが、[メニュー]のシステムを再現したシステム。
 そして、蘇生率を高めるために行われる肉体情報の完全複写だ。

「どっちもオンとオフが自在だけどな。便利にしたいなら前者だけでもいいし、死ぬ可能性を少しでも減らしたいなら後者もオンにすればいい」

 現在、俺の薄めた蘇生薬が少しずつ世界に広められているので、死亡率は休人が来る前と来た後で大きく変わっている……と言いたいが、そこはこれまで通りだ。

 正確には一度死にかける確率は上がったのだが、その蘇生薬(希釈済み)の効果もあって生存する確率が向上していた。

「休人が来たことで救われた命もあれば、逆にそのせいで失われた命もある……さすがに俺自身が悪即斬とかはできないから、可能な限り償いをな」

 すでに、『プログレス』が蘇生能力を発現させる例も確認されている。
 聖職者でもギリギリ蘇生魔法を使えない者などは、強い渇望からそれを発現させた。

「他にもコピー能力だったり強奪能力でも蘇生は使えるようになる……後者はどうかと思うけど、アレって結構ハズレだしな」

《強奪能力、そして強奪した能力にリソースが奪われる以上、仕方の無いことです》

「使いこなせば『超越者』に匹敵するかもしれないけどな……さてさて、そんな奴が本当に誕生するのかな?」

 まあ、規制として『プログレス』からしか奪えないように最初からセットしてあるし、盗られても条件を満たせば復活できる……そういう部分も、配慮はしてあるのだ。


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