虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

神様談 前篇(19)



「また面倒な……いや、実に面白いものを用意したよね。プログレス、だったね? これが世界に広められることで、いったい何が起こると思う?」

 神々の領域にて、少年の姿をした神──創造神は部下である◆◆◆◆に問いかける。
 その掌の上には、宝石の形をした装置……に見せかけたナニカが浮かんでいた。

「休人による一強……でしょうか? 運営を通じて全休人が得るのであれば、それは大きな戦力差となるはずです」

「でも、知っているでしょ? プログレスは別に、休人だけにしか使えないわけじゃないことを。アレは全世界の全存在が使える、そういう風に作られている。この取引を行うのは、それを埋め込むためだよ」

「……なぜでしょうか」

「外せないようにするため。最初からそういうものだと理解すれば、あとから危険性を聞かされてもどうしようもできない。腕を切って外そうとしても、アバター設定から仕込めば抜けなくなるからね」

 プログレスは持ち主の在り方を読み取り、与えられた情報を基に成長する。
 脳波や心理テストではなく、■■……文字通りその者を示す証から初期値を得ていた。

 しかし装置である以上、外されてしまえばその成長も停止してしまう。
 創造神はそこで、ツクルたちに提案したのだ……決して外せなくなる方法を。

 アバター設定は休人たちが、異なる世界に現界するための器を創る作業。
 器は休人たちが支障なく活動するため、在り方を保存したうえで彼らを定着させる。

 その時点でプログレスを身に着ければ、それを含めた情報体が記録されるのだ。
 何度死のうとその手にはプログレスが植え付けられ、情報はとある場所に送られる。

「デメリットばかりじゃない。プログレスは成長次第で様々な恩恵を与えてくれるよ。成長次第で種族限定のスキルが使えるようになるし、共通の能力として蘇生の成功確率を上げるっておまけもある」

「蘇生の確率ですか?」

「プログレスは言わば、もう一人の自分だからね。本体の■■が損傷していても、プログレスには成長ごとに保存された本体の情報が残っている。蘇生時にはそっちの情報も参照されるから……って寸法だね」

 情報の送信のための機能だが、副次的にそういった効果ももたらす。
 高位職の蘇生魔法ならばともかく、人族が扱う蘇生魔法の性能はあまり高くはない。

 聖職者系の職業に就き最大までレベルを上げていれば、いちおう蘇生魔法と呼べる魔法は使えるようになる……ただし、完璧と呼べる成功率が絶望的に低いだけで。

 プログレスを装着していれば、そんな質の悪い蘇生魔法でも蘇生率が上がる。
 それだけでも、世界中の人々が装備するだけの価値があるのだ。

「──それでは、儂の仕事がさらに減りそうになるのだがな」

 二人の会話に入ってくる、新たな声。
 老人の姿をした神が、新たにこの場へ現界するのだった。


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