虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その17



「──というわけで、ギリギリだった」

「どんだけだよ、お前……よくそんなカスい能力値で、最上位報酬までイケたな」

 休人たちが『プログレス』を使用し、その可能性に注目された熟練者の非戦闘職部門。
 俺とタクマは共に、最上級報酬を獲得していた……ただ、コイツの場合は──

「ベスト3、おめでとう。ずいぶんとまあ、凄い『プログレス』じゃねぇか」

「……非戦闘職なんだけどな。お前の発明、いろいろとシステムバランスを崩壊させてないか?」

「お前の……[メモリーメイカー]だったっけ? パクリだけど、めっちゃ凄かった」

「……自覚はあるからさ、あんまり抉ってくれるなよ」

 タクマの『プログレス』は名前の通り、記憶に関する能力だ。
 自身の記憶から事象を引き出し、それを現実に反映できるというもの。

 ただし、鮮明な情報が無ければ扱えず、具現化させても霧散されるかかなり脆い。
 だが、タクマの職業である【情報屋】系統には、総じて記憶に補正が入っている。

 そのため、情報の『密』が高く、威力もそれなりに出ていた。
 ……それ以外にも、記憶にあることなら何でも生みだせるため万能なんだよな。

「リスクなんてあるのか? なぁなぁ、ベスト3さんよ?」

「……上手くないからな。単純に燃費が悪いこと、発動の都度に準備が必要なこと、事象しか出せないこと、自分がこの目で見た記憶じゃないとダメ……とか割と制限があるぞ」

「ああ、持ち込みはダメなのか……まあ、この世界なら何でもありそうだけど」

 最後のモノ以外、当然と言えば当然な制限である。
 一つ目と二つ目はそのまんま、三つ目は生命関係を生み出せないということだ。

 そして四つ目、これが重要。
 現実からの持ち込みや何かの媒介を通して見るのではなく、実体験で無ければダメということだ。

「ここはあんまり俺と相性が良くなかった。覚えてはいられるけど、覚えるために実地へ行かなきゃダメだからな。お陰でフィールドワークさせられる羽目になった」

「まっ、店に引き籠もるなっていうありがたいお告げだろ。それが嫌なら、全部の性能を捨てて媒介もオッケーにすればいいだろ?」

「……それをやるぐらいだったら、人を雇って見せてもらった方が楽だ。今度、お前の知り合いも紹介しろよ」

「それをやっても、お前の情報処理が足りなくて無理だからな。覚えておくだけでも、間違いなくパンクする」

 外付けの記憶みたいな能力補正らしく、精確に覚えることにも限界があるんだとか。
 そして、それらは『超越者』の振る舞いを覚えるのには容量が足りていないのだ。

 ──そう考えると、やっぱり【魔王】は異常なのだと再確認できるよな。


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