虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その16



 そもそも、非戦闘職とは何なのか。
 本来の意味は、戦闘には向いていない……というより、戦闘を想定していない職業の総称ことなのだろう。

 非戦闘職は戦闘に直接関わる能力値が上がりづらい、もしくはほとんど上がらない。
 生産や趣味、仕事など……魔物を狩らずとも、経験値が稼ぎやすいのが特徴だ。

 そんな本来は戦闘に向いていない非戦闘職だが、従来はスキルや装備、アイテムなどで工夫を凝らすことで戦闘でも充分戦えるようにすることができる。

 とある『超越者』は、戦場で即座に武器を用意して使う……なんて離れ業をしておきながら、職業は鍛冶師系統のものだったし。

 ──そして、『プログレス』が登場した。

 スキルは習得条件を満たすことが難しく、装備やアイテムは用意するのが難しい……だが『プログレス』は本人の求めるナニカを叶えるものなのだから、大抵は理想の力だ。

 魔石から情報を抽出し、指向性を成長に持たすことでより求める力となる。
 そしてそれは、非戦闘職が戦闘に向いていない理由を消して、戦えるようにするのだ。

  □   ◆   □   ◆   □

「凄いなアレ……どうやっているんだ?」

 大量の魔物たちが蔓延り、ランナーたちを襲っている。
 それらは本来、当たり前の光景だった……その魔物たちが絵の具でできていなければ。

《【落書王】の能力である“万象絵画”、そして『プログレス[モンスタースタンプ]』の合わせ技です》

「【王】系の職業か……それに、あれって判子みたいなものなのか」

《前者は事象にすら干渉し、絵を書き足すことで性能に変化を起こす能力。後者は倒した魔物のスタンプを物体に押すことで、性能に変化を起こす能力。それら二つが合わさり、魔物そのものの生成を可能にしました》

 ただ性能を補正するだけでなく、もともと【落書王】は描いた絵を具現化させることができたらしい。

 そこに、[モンスタースタンプ]が組み合わさり、本当に魔物たちが判子を押すだけで出てくるという事態に至ったんだとか。

「水を掛ければ大半の個体は溶けているみたいだが、あれは絵の具だからだよな?」

《[モンスタースタンプ]は【落書王】の能力を基に効果を発揮しております。そのためあのように、水溶性を持つ個体が多くなっています。ですが、スタンプを用意する際から準備をしておけば……》

「耐えられる個体も居るわけだな」

 ドロドロに溶けていく魔物たちに紛れて、そのまま攻撃を続ける個体も居た。
 それらは通常の魔物に混ざり、隙を突いてくるためランナーたちは油断できない。

 本当、面白い戦い方だよな。
 俺も:DIY:が戦闘に使えるって話だったら、間違いなく無双プレイをしようとか考えるもんな。

 それはできなかったし、するための方法も極めて難しい。
 だが、いつかそれができたとき……家族のために、何ができるんだろうな。


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