虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その10



 光の速さで追いかけてもなお、届かない速度で進むごく一部の休人たち。
 スキルによる一時的なブーストっぽいが、いずれにせよ速いことに変わりはない。

 配置された魔物やらオブジェクトを、すべて突っ切って駆け抜ける。
 それこそが、本来このイベントにおいて求められた動きなのだろう。

「……邪道だろうがなんだろうが、俺の負けてはいられないな。最適ルートを進んでいる俺に、これ以上の動きはできないけど」

 前回は一位じゃなくてもいいと割り切っていたが、今回は頑張らねば最上級の賞品が貰えそうにない。

 自動走行モードで最短距離を進み、障害となる物を俺が[龍星メカドラ]で撃ち落としている。
 何かを殺せばレベルが上がる、生きた武器なのでここぞとばかりに撃つ。

「飛ばすか──『推爆の噴器』」

 このままでは足りないと、『死天』謹製のアイテムを使い始める。
 原付き用に調整したそれは、膨大な火力を以って機体を前に推し進めていく。

 光の速さで進むそれに、今さらな気もするが……ファンタジーな成分も内包しているからか、不思議と速度は増している。

「そういえば、これもアレが原因なのかもしれないな」

《『プログレス』でしょうか》

「ああ、『SEBAS』の言う通り。アレにセットできる能力が、全部速度向上系ならできるはずだし」

 そう、それは俺と『SEBAS』が開発した成長する機械。
 魔石を糧に擬似的な成長を行うのだが、アレもだいぶ世に出回った。

 無数にある『プログレス』なので、中にはそういった成長を果たしたモノもある。
 開発者である俺たちは、どの端末がどのような成長をしたのか知る術があるのだ。

 あくまでも能力は、個人のパーソナルを基に創られるため、選ぶことはできない。
 しかし魔石を注ぐことで、ある程度その方向性に干渉することが可能なのだ。

「……まあ、普通なら策士策に溺れるとか、墓穴を掘るとかそういう表現がピッタリになりそうなんだよな。けど、『SEBAS』が居るから問題ない」

《お任せください。旦那様、重力を前向きにしていただけますか?》

 自分たちの行動が、どういった結果をもたらすかなど『SEBAS』が知っている。
 俺はその指示に合わせ、動くだけで好い結果が得られる。

「了解。それじゃあ、さっそく──原付きオプション03『重力機関』展開」

《『重力機関』を転送──完了しました》

 車体に重力を操る特殊な機械が転送されると、すぐに方向を自分が進んでいる側に掛かるよう調整を行う。

 すると、自由落下するようなふわりとした感覚が体を包む。
 同じように重力を操作し、体と車体を固定しておくことですぐにそれは元に戻る。

「坂を下る感じでいけるか──進め!」

 後方ではエンジンが文字通り火を噴き、時折爆発しては速度を増す。
 それらはすべて光学迷彩に隠され、空の上で行われていること。

 ──参加者は気づくことはなく、気づくことができても邪魔はできないのだ。


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