虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その06



≪位置について──よーい、ドン!≫

 合図は変わらず、なんだか子供に向けられるような掛け声で始まる。
 まあ、初心者にはある意味お似合いの台詞セリフだとは思うが。

「それじゃあ、先に行くぜリーダー!」

「ああ、頑張れよー」

 キーシはすぐさま駆け抜け、進路ではない道へ行かないように設置された破壊不能オブジェクトを壊しながら進んでいく。

 ……ツッコミどころ満載だが、それが目の前で起きている事象のすべてだ。
 ちなみにその道は修復されない限り誰でも通れるので、他の者も通っていく。

「お陰で順路に行く奴が減ったな。じゃあ、俺たちも行こうか」

《光学迷彩展開──『原付き』の転送を開始します》

「『光速機関』を起動、オート操縦モードで今回は飛ばしていくぞ!」

《仰せのままに》

 戦闘職が対象なため、障害物やら妨害をしてくる魔物などが配置されている順路。
 俺は魔力で動く原付きに乗って、その道を光の速さで進み続ける。

 罠が作動したり、投石されたり。
 さまざまな仕掛けが用意されているが、原付きの周りには結界が展開可能である。

 風に耐えられるように張っていた簡易の結界なのだが、俺の結界はすべて『超越者』である『龍王』が使っていたものが基だ。

 シナジーのようなものはあまりないが……その長い年月の間に編み出したという、年季的なものが入っている。

 まあ、そんなこんなで結界は頑丈、並大抵の攻撃ではビクともしない。
 ソニックブームなどで起きる影響は、常時『SEBAS』が防いでいる。

 恐れるモノなど何もない。
 そう考えていた俺に訪れたのは──横からの強い衝撃だった。

《旦那様、宙にドローンを展開しました。準備をしてください》

「準備って言われてもな……ほっと」

 特に何もしていなかったが、とりあえず着地の体制にだけ入る。
 すると宙であるにも関わらず、予告通り大型のドローンが足場となって着地できた。

「いったい何が起きたんだ?」

《あちらをご覧ください》

「あれは……げっ!」


「──なんだなんだ、殴った感触はあったはずなんだがな? なんもねぇじゃねぇか」


 逞しい筋肉を秘めた男、キーシがそこには立っていたのだ。
 その手に握り締めたのは、俺の[星砕き]には及ばずとも巨大と言えるハンマー。

 おそらく……というか間違いなく、俺はそれを受けて吹っ飛ばされたはず。
 念のため発動していた『死天』の効果を確認すると、その予想は的中していた。

 しかしまあ、いったいなぜ俺たちに気づかれることなくここまで来たのか。
 その答えを、俺はすでに知っていた。

「……万能すぎるだろ、『破天』」

 ありとあらゆる概念を砕く、その域にまで昇華された『破天』の権能。
 神に与えられた死亡センサー、そして空間の概念まで砕いてやってきたのだ。


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