虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
マラソンイベント その05
「……ふぅ、いいドライブだった」
結論から言えば、俺は一着になれた。
考えれば当然だが、人の身で光の速さに敵うわけもなかったのだ。
一位だった休人は長距離を想定しない構成だったので、変わらず光速だった原付きがすぐに追いついた。
……非戦闘職の初心者部門なので、無双できるのは当然とも言えよう。
そういったこともあって、光学迷彩を使用したまま俺はこっそりとゴールしたのだ。
「さて、どんどん次に行かないと。普通は想定していないせいか、全然部門ごとに差が空いてないんだよな」
まあ、今日だけじゃないので問題ないが。
数日の間イベントは行われており、その間に一度だけ、それぞれの部門に参加できる。
実際にはタイムで順位が決まるため、さっきも抜こうと思わずとも良かったのだが。
そこはやっぱりノリ、勝ちたいと思ったからこそタイムが上がった……かもしれない。
「どのタイミングで参加すれば、妨害が少ないか……そういう部分も考慮して参加するのが、鍵なんだよな」
「──そうだったのか。なら、リーダーと同じタイミングなのは最悪だったな!」
「……俺も、お前と同じタイミングなのは面倒臭いと思っていたところだ」
戦闘職の初心者部門に並ぶと、そこには絶対に初心者ではないとすぐに分かる見てくれの男が待っていた。
かつてのMMO仲間で、EHOにおいては『破天』を冠した男──キーシ。
チート染みた権能によって、強引にこの部門に参加しているという経歴を持つ。
「いつの間にかゴールして、しかも一位とかやるなリーダー! なぁ、いったいどうやってやったんだ?」
「……それを言ったらおしまいだろ。まあ、気になるなら『情報屋』に訊けばいい」
「ん? ああ、そういやアイツも居たな。本当に気になるし、そうさせてもらうわ」
タクマにはごく僅か、魔力で動く乗り物があるぐらいの話はしてある。
すでに倭島で『宣教師』に渡した代物なうえ、『機械皇』も保有していた品だし。
「なぁリーダー、クランとか作らねぇの?」
「……とは言ってもなぁ。『渡り船』をここでやろうにも、あんまりメンバーが居ないからな。ル……じゃない、アズルは居るし、お前以外にもロームとかハックとかも居るが、やっぱりアイツが必要だろ」
「ジンリか……アイツって、こっちでもやっているのか?」
タクマは知っているようだが、俺はまだ見た覚えがない。
アイツはそういう経営に詳しく、サブマスターとして支えてくれていた。
ルリも認める優秀な奴で、いつも頼りにしていたな……。
今度、タクマに訊いて探してみようか。
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