虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その04



 原付きを乗りこなし、駆け抜ける。
 操縦に関する職業スキルもセットしてあるし、結界の精度も向上しているため、安全な運転を行えていた。

 魔道具使用可能というルールがある以上、俺を止める者は誰も居ない。
 空から天罰が降ってくるわけでもないし、そもそもマラソンには先導者が付き物だ。

「まあ、あれはランキングには入らないんだけどさ。今回は俺も参加者、張り切ってやらせてもらうぞ」

 いかに非戦闘職向けの部門とはいえ、いっさい何もない、果てしない道のりというわけではない。

 魔物との戦闘は無くとも、さまざまな仕掛けが用意された……ミニゲーム的なマラソンである。

 そこまで行くと、正直トライアスロンじゃないかとも思うが……運営がマラソンと言った以上、それはマラソンなのだ。

「たとえば第一トラップ、湖突破。足が速い奴はエリマキトカゲみたいに走るし、水の中でも動ける奴はそのまま走る。できない奴だろうと、速度が低下する代わりに走れるポーションを飲めば行くことができる」

 運営謹製のアイテムとして、そんな効果を持つポーションが配布されていた。
 全環境対応になる対価が、敏捷力が低下するだけ……チートだよな。

「解析はしておきたいが……運営のアイテムはそれができないからな」

《申し訳ありません》

「それに類似したアイテムを作れるようになろう。デメリットを変えれば、もしかしたら部分的に再現できるかもしれないからな」

 何も、そっくりそのままやる必要はない。
 本当に大切な部分を維持できれば、他はどうでもいいだろうし。

「じゃあ、俺たちも行こうか」

《畏まりました──『光速機関』を駆動し、制御を実行いたします》

「ああ、頼んだぞぉおおおお!」

 これまでと同じだけ吹かしていると、その尋常ではない速度から体をグイっと引っ張られる感覚に襲われて……死ぬ。

 虚弱な体を強引に操り、ハンドルを握りしめて原付きを動かす。
 結界の再設定が終わり、楽になった状態で気分的にはゲーム感覚である。

「一位はどれくらいだ?」

《この先、一キロの地点です。どうやら採集中の逃走を考慮したステータスを作っていたようです》

「なるほどな。考えたな……まあ、単独生存型のビルドってことか。そうでもないと、普通は依頼して満足するはずだし」

 とはいっても、新鮮な素材が欲しい休人たちはよくやっているようだが。
 最近は便利な魔道具が多く売られているので、それらを用いれば後天的でもできる。

 ──まあ、その頂点である俺には誰も及ばないわけだが。
 先天的VS後天的、果たして勝つのはどっちなんだろうか?


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