虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その03



「さて、キーシにも負けないよう頑張らないとな。まさか、あんな方法で入ってくるとは思ってもいなかったし」

《いかがなされますか? どのような方法であろうと、キーシは『破天』の権能を用いて強行突破していきます》

「……そうなんだよな。システムの枷も壊せるってことは、それ以前のモノも砕けるわけだし。シンプルなやり方の方が、巧妙な罠よりも時間を稼げるかも。最初は様子見、何が通用するか見て考えよう」

 マラソンは初心者部門から始まる。
 キーシは戦闘部門、俺は両方……参加できるモノなら何でも参加可能なので、職業を切り替えてエントリーしておいた。

 非戦闘職部門に集まる者は少ない……ということもなく、テレビで見るマラソン並みに人が集っている。

 プレイ人数が多いEHO、始めたばかりというか本当の初心者も多いのだ。
 そんな中に混ざる異物……本当、なんで参加しているんだろうな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

≪位置について──よーい、ドン!≫

 かけっこにありがちなフレーズを聞きながら、参加者たちはダッシュを始める。
 一部の勝ち組……身体系スキル持ちは、即座にそのスキルを使って前に進み出た。

 ただ、初心者でそれができる者は少ない。
 なぜならこの部門は非戦闘職だけが集まる者であり、なかなか足に関するスキルを取る必要が無いからだ。

 最低限割り振られた敏捷力があれば、人並みに走ることはできるだろう。
 しかし、この世界ではたとえ足が遅いモノでも敏捷力に2以上振っておけば早くなる。

 その結果、現実だと足が速いからと1しか振っていない者は遅れることに。
 能力値が倍々に補正してくれるわけでもないが、だいぶ影響するんだよな。

「だから、こういうことをやらないと俺も負けるんだよな──『SEBAS』」

《畏まりました。光学迷彩展開──『原付』の転送を開始します》

 さすがに目立つので、自分の周囲には光を展開することで身を隠しておく。
 視覚以外の情報でバレる可能性は高いが、困るのはカメラだけなので問題ない。

 また、同じく光学迷彩が施された乗り物がこの場に転送される。
 魔力で動くこの乗り物、この場に居る初心者たちでそれを見抜ける者はいないだろう。

「……まあ、居たとしてもこれは公式ルールに反していない。魔法なんて何でもありが使えるんだから、今さらだし。魔道具は使っていいんだもんな」

 俺本人が転移を用いることは反則だが、アイテムを転移させるのは問題ない。
 そうでないと、[ストレージ]からアイテムを取り出すのも反則になってしまうから。

 ──というわけで、一人魔力エンジンを吹かしてコースを走り抜ける。

 うん、一位は俺が貰う!


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