虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
マラソンイベント その02
イベント世界
「……完全に張り切ってるなー」
いつものように転送された世界なのだが、今回はいつもとまったく異なる点がある。
それは座標──明らかにZ軸の数値が高くなっているのだ。
「まあ要するに……上空なんだよな」
休人たちが召喚されたその場所は、普段とは違って空の上。
もう一つの大地が宙に生成されており、そこを走らされることになるのだろう。
「……で、なんでお前さんだよ」
「おいおい、ずいぶんな言い方じゃねぇかおい! なぁリーダー、久しぶりだな!」
「キーシ。会いたいと思うなら、その前科をしっかりと償ってこいよ」
「おお? 嫌に決まってんだろ。どうせ何か壊せば揉めるんだ、決まりっていうルールごと壊しちまった方が早ぇだろ」
筋肉ムキムキ、野菜星人のように金髪を逆立てた男を見つけた。
彼はキーシ、俺とルリとタクマのMMO仲間で、EHOにおいて『破天』を持つ男だ。
「レベル別に分けられているはずだが……お前って、熟練じゃないのか?」
「うんにゃ。最近は何でも壊せるからな、選べない選択肢を壊しただけのことよ」
イベント開始前、自分がどのコースに参加するかを選ばされたのだが……選べないコースは灰色になっており、選択できなかった。
だが、『破天』は破壊不能な物を壊す権能によって、それも砕いてしまったようだ。
なるほど、そういう理由かと納得する……普通、『初心者』コースには来ないからな。
「……うわー、チート臭い」
「ガッハハハ! リーダーにだけは、言われたくねぇぜ。知ってんぞ、銃を作ったのリーダーだって話じゃねぇか!」
「お前が使うようなものじゃないだろう? それとも何か試したのか?」
「例のブラックボックスとやらをな……けどダメだった。まあ、リーダーのやらかしたことの産物だってんなら、それも納得だ!」
キーシが言っているのは、俺が冒険世界にバラまいた光子銃のことである。
その構造は秘匿技術(適当)にしてあるため、暴こうとすると機能しなくなるのだ。
……それを強引に破壊しようとしたのか。
自己消滅プログラムを破壊されると厄介だが、どうやらそこまでは対応していない時期に試したようだ。
《すぐに対策を行います……が、完全版が分からない以上、対策の域を超えません》
「まあ……やらないよりはマシだろう。その壊された情報を訊くから、どうすればいいか考えておいてくれ」
《畏まりました》
行った日時を訊き出せれば充分だったが、具体的にどうやったかも教えてもらった。
対価はポーションを数本で済んだので、安い買い物だったな。
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