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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

贋作 中篇



 アイプスル

 下級職【贋作者】の就職条件は、そのまんま──贋作を作り上げることだ。
 作り上げる物の種類は問われないが、最低でも十種類百個以上が必要量らしい。

「とはいえ、これ自体は単純にできるからいいんだよ……無しでやってみるか」

 俺が:DIY:を生産時に使うのは、主に自身の命を守るためだ。
 ……使ってないと、反動で死ぬのが虚弱スペックの俺なんです。

 ただし、結界を張っていればある程度防ぐことが可能だ。
 その対価は微妙に手捌きに違和感が生じること……なので普段は、やらないんだけど。

「今回はそれがちょうどいい。偽物よりも本物らしく、本物よりも真に本物に迫っているとか嫌みったらしいだろう? さすがにそれは、見せられないもんなー」

 今は剣を打ち上げている。
 いつものようにイメージした物を設計図として反映させるのではなく、見た物を参考にしてそっくりそのまま複製していた。

 とはいえ、意識を生産活動に向けてしまうと品質がだいぶ上がってしまう。
 なので『SEBAS』との会話を行うことで、意識を逸らしながら手を動かしている。

「そもそも、贋作認定ってどういう条件があるんだ? 見た物をパクったって、ただの偽物として判定されないか?」

《贋作は贋作スキルや専用のアイテムを用いることで、仕上がったアイテムの情報を一部偽装することで認定されます》

「それがこの『偽信の粉末』か……よし、これで完成だな!」

 打ち上げた剣に粉末を書けると、どう情報改竄するかの画面が表示された。
 剣の名前、製作者、品質や説明文など、それらすべてを弄って誤魔化しておく。

「これが贋作なのか……まあ、次のヤツを始めるとして。『SEBAS』、複製品って贋作対象には入れられないか? それができたら、こういう作業が不要な気がするんだが」

《あれは本物を完全に複製しており、ステータス上でも本物として認識されます。完成品には贋作スキルは通用しませんので、改めることは不可能となっております》

「なら仕方ないか……ああ、少しが入ったから品質が上がった! これ、セーフかな?」

《おそらくは》

 品質が高すぎると、耐久度が高くなるため贋作にしづらくなるのだ。
 普通、こういうことって悩まなくてもいいのに……器用さDEXが999だとこうなる。

 成功と失敗を繰り返しながら、どうにか贋作品を大量に揃えられた。
 武器だけでなく、ポーションや何かの許可証なども沢山用意されている。

「【贋作者】……取れたか?」

《──就職、完了しました。旦那様、このまま【贋造者】の就職条件を満たしますか?》

「……気が進まないが、やっておこう。世の中、何が起点になってイベントが起きるか分からないからな」

 俺の気が重くなっていた理由、それは間違いなくこの先の就職条件が関わっていた。
 ……成功とは、誰かの犠牲無くして創り上げられないのだろうか。


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