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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

精霊獣 後篇



 アイプスル

 この世界でもっともデカい樹の下で。
 他世界より迎え入れた精霊獣と、かつて別の世界で森を守護していた森獣の二体が接触していた。

『まさか、本当にそうなるとは……』

「何のことだ? まあ、別にいいが。ともかく、彼がイピリアだ。で、コイツは風兎……じゃなくてクローチルだ。風兎、よければコイツにいろいろと教えてやってほしい。守護獣が何をすべきかを」

『……驚いた、名を覚えていたのだな。まあいい、イピリアとやら。コイツとは少し離れた場所で、話そうではないか』

『あ、ああ……』

 虹色のヤモリと風を纏うウサギは、そうして案内役だった俺から離れていく。
 何か言いづらいことでもあるのかもしれない……『SEBAS』に訊いてもらおうか?

《いえ、問題ありません。旦那様は少し、クローチルを酷使していたのかもしれません》

「『SEBAS』が何も言わなかったってことは、許容範囲だったんだろう? ほら、いわゆるツンデレってやつ」

《……いえ、交友関係に私が口を出すような真似はしません。今一度、クローチルと話してみることをオススメします》

「ふーん。そうだな、風兎とあとで話してみるとしよう。お詫びの品は……人参十本ぐらいでいいかな?」

 うちの人参は風兎先生監修の下、厳選に厳選を重ねた品種となっている。
 噛めば果物以上の甘さが、果汁は癒しの効果がある甘露、そして何より──美味い。

 そんな人参は、風兎印の人参という形で冒険世界で出回っている。
 都市伝説級の有名さで、とある宗教団体の長も好んでいるが……それはまた、別の話。

「精霊獣か……『SEBAS』、この世界に自然発生する可能性は?」

《いずれ、確実に。世界樹は精霊を育む場所として最適であり、実際に精霊たちが誕生しています。精霊獣とはそれらが稀に、獣の形として生まれる現象。この規模の世界樹であれば、必ずや》

「それに【救星者】で干渉することは? 具体的に生まれてくる存在を選ぶことは?」

《──どちらも可能です。コンセプトを事前に用意し、組み込むことで指定した内容をこなすことのできる精霊獣を生み出すことが可能です。ただし、ある程度触媒を捧げなければなりません》

 触媒は世界樹の奥に生まれた祠に捧げればいいようなので、さっそく向かう。
 普段なら訝しみそうな風兎も、今はイピリアに気を向けているので気づかない。

「さてさて、つまりリソースが多ければ多いほど優秀になるわけだ。よし、できるだけリソースとして使えそうな用意してくれ!」

《畏まりました》

 なんでもまずは試してみよう。
 そっちの方が面白そうだし……レッツチャレンジ!


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