虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
守護獣談(01)
「なるほどな、ヤツはまたしても大きく世界へ介入したわけか」
『そうは言うが、悪いことでも無かろう』
「翁は優しすぎるぞ。たしかにその解は正しい、ヤツにはそれを可能とする頼もしい執事が付いているからな。だが、それとこれとは別だ……まったく」
『ハッハッハ! クローチルよ、そちらでもマスターはやらかしておるのか?』
隔たれた二つの世界。
それらを繋げることで成立した会話は、傍から見れば二匹の動物による物。
ウサギとカメの姿をした彼らは、それぞれの世界において守護獣と呼ばれる存在。
そして話すのは、互いが主とする者に関する……愚痴であった。
「ああ、その通りだ。ヤツと来たら、神・世界樹を神樹と呼び、陸海空に星の力でさまざまな改変を……」
『だが、すべて上手くいっているのではないか? いや、それゆえにそこまで不服そうな顔をしているのか。なるほどのう、若いとはこうも新鮮なものだったか』
「ぐっ……お、翁こそ! ヤツに対しては無駄に気張った敬語を使っているだろう!」
『目上の者に対し、礼儀を弁えるのは当然であろう? それを言うのであれば、『ヤツ』と呼ぶお主はなんであろうな?』
やや棘のある言葉の応酬。
だが、彼らは言葉に棘は含めても、感情にまでは籠めていなかった。
共に世界を守護する者。
そして、何より同じ主に悩まされる者として、何十何百という語り合いを繰り返していた彼らにとって、それは日常会話だ。
「くっ……」
『ふっ……』
「『ハハハハハッ!』」
どちらが先でもなく、同時に息を漏らし笑い声をあげる。
やがてそれも静まると……彼らは本題を話し始める。
「ところで──次は何をすると?」
『ああ、『SEBAS』殿から連絡があったぞ。『いべんと』なる世界へ向かい、彼の地に居る精霊獣に接触すると』
「……ヤツの奇縁は凄まじいな。話には聞いていたが、予定として組み込むほど容易に出会うことができるとは」
精霊獣。
守護獣──聖獣と呼ばれる彼らは違い、性質が精霊であるため基本的に自由な精霊獣は居場所を変えることが多い。
だからこそ、人々は崇め奉ることでその地に居留まってもらおうと努力する。
守護獣はその地を守護するのみ、人々を守るのはそのついで。
しかし精霊獣は違う。
明確な使命を持たない彼らは、その揺らぎやすさを以って率先して人々を救うときがあるのだ。
『もしかしたら、次の話し合いには第三の参加者が生まれるかもしれないのう』
「……その予想は、当たりそうだから困ってしまう。ヤツは人……いや、誑しだからな」
再び彼らは笑い合い、今日も今日とで語りあうのだった。
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