虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
古代交渉 その15
「──では、そういうことで」
『…………』
「ええ、陽が再び昇った頃に」
虫の王である『原初魔虫』との交渉が終わり、俺はこの地を去る。
天敵だったヤツの絶滅も済ませて、俺の気分は夢心地だ。
古代人たちと同じ言語を持たない魔物たちばかりだったが、『SEBAS』がそのすべてとコンタクトを取る方法を見つけてある。
あとで言葉を双方に伝えられる魔道具を製作し、設置するつもりだ。
それで俺と『SEBAS』以外でも、話せるようになるからな。
「さて、帰るか。転移……はダメだな。手段は伏せておくべきか。『SEBAS』、もう一度空中歩行を頼む」
《畏まりました》
空中に空間を構築すれば、それを足場にして移動することができる。
これは転移を見せないために、ここに来てからずっとやっていることだな。
……今は、視ているやつもいるようだし。
◆ □ ◆ □ ◆
北区 山岳
古代人たちの街に帰ってくると、俺はすぐに『代表』の下へ向かう。
どうやら会談の準備で忙しかったみたいだが、しばらく待つと時間を空けてくれた。
「どうしたんだ、何か問題でも生じたか?」
「いえ、終わりました」
「…………すまない、もう一度言ってもらえないだろうか? 幻聴を発症してしまったようなのだ」
「ですので、終わりました。知性を持つ魔物すべての下に向かい、交渉。最終的に個体すべてが快諾をし、明日には可能です」
そう伝えると深ーーーくため息を吐き、椅子に脱力して倒れ込む代表。
理由は何となく分かる、仕事を任せたヤツが物凄く早く終わらせるとこうなるよな。
「タビビト、お前という奴は……」
「申し訳ありません。これらの問題は可及的速やかに済ませる方がよいと勝手に判断してしまいました。どうしても立て込んでいるのであれば、私の方で済ませておきますが……当然、自ら向かわれるのでしょう?」
「当たり前だ。タビビト、お前にすべてを任せては我らの面目がない。すぐに準備を始めよう、場所はどこになっている?」
「中央にある火山、その内部を少々改造しておきました。そこに至るまでの道も皆さまに合わせてありますので、時間さえ間違えなければ必ず辿り着くでしょう」
なんせ、俺は【救星者】。
この箱庭も支配しているので、環境を無視した調整も行うことができる。
とはいえ、ずっとやっていると不備が出てしまうので期間限定。
会談が終わってしまえば、『SEBAS』がすぐに戻す予定だ。
「明日、結果はどうあれこの世界は大きく動きます。代表さん、頑張りましょう」
「……ああ、とんでもないヤツだな。こちらも負けずと、我らの平穏を守り抜こう」
「ははっ、今さらですよ。ええ、ここが勝負どころです」
そんなこんなで翌日、強者たちによる会談が幕を開くのだった。
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